2017 Fiscal Year Research-status Report
頻発する台風撹乱に伴う生態系の状態変化と炭素動態に関する野外および数値実験研究
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16K00515
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
戸田 求 広島大学, 生物圏科学研究科, 講師 (40374649)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 台風撹乱 / 生態系レジリエンス / 光合成 / 形態的応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題活動について、1年目では台風撹乱実験を行う場所の選定、必要データの収集、データのクオリティチェックなどについて検討し、2年目では、学術論文の取りまとめにかかる活動・研究打ち合わせ・学会発表などを行ってきた。この過程の中で、頻発する台風撹乱が北方林の代表的な先駆種であるダケカンバを主とする森林生態系の炭素動態に及ぼす影響についての研究の一部が完成した(Toda et al., 2018a)。これにおいては、その先行となるToda and Richardson (2018b)で用いた方法が土台となった。 Toda et al. (2018a)では、台風の撹乱に伴い葉群が一掃された森林における、その後の葉群回復の時間的特徴をまとめた。葉および枝の量的回復は撹乱から数年後で見られた。この回復時間については、撹乱頻度や強度によって異なることが予想されるが、数年程度のオーダーで回復以前の状態に近づくことが示唆された。一方で、葉群の空間的配置にも最適地が存在することがわかり、回復以前の空間配置状態と比較して完全に一致するまでには、葉群の量的回復からさらに3年程度の時間が必要であることが分かった。これが何を意味するのかについて、炭素動態の観点から考察した。その結果、個葉はそれぞれ最大の光合成速度を達成し、個体レベルでの生産量を高めようとすることが考えられその結果、最適な空間配置を意識した幾何学的状態の達成が必要と考えられた。このことは従来より生態学の分野で指摘されたことであるが、実際にこれを計測しその回復速度について定量化されてはいなかった。今回の研究では、この定量的評価に成功した。さらに、個葉レベルの光合成速度を増加させたメカニズムについて調べた結果、葉の厚みを増大させる形態的応答が顕著であったことがわかった。今後はこれらのプロセスを加味した炭素動態のモデル研究を進めることとなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在まで、目標とする「撹乱からの森林機能および構造的回復についての評価」について、観測的観点から順調に研究成果が取りまとめられていることを記載する(詳細は概要に記載済)。これらの成果は、解析基礎となる研究成果および現在審議中論文も合わせ、合計3本の国際誌学術論文掲載を可能とする状況下にある。本活動で得られた知見は、北海道のみならず、北半球の中高緯度帯に広く生育展開する冷温帯先駆種のダケカンバを対象にして行われたものである。したがって、本知見による撹乱応答研究は、同気候帯のその他の生態系の応答理解を向上させる上で重要な成果となった、と考えられる。この観点から、ドイツの研究機関(ゲッティンゲン大学、生物気象学研究室)と共同研究に向けた打ち合わせを行い、現地にてセミナーを行った。今後は、この知見を活用し、将来の気候変化に伴い頻度増が予想される極端気象に対する生態系応答予測をするためのモデル化が必要である。したがって、今後は同モデルの利用から、観測値との比較をとおして、多様な強度や頻度を有する撹乱が生態系炭素動態に及ぼす影響の定量的評価、および将来の極端気象時における将来予測研究につなげることができる段階に入った。ここまでの経過を受け、課題の達成状況は順調であることを記載する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の課題遂行にむけては、対象とする生態系の応答特性を加味したモデリング研究に重点が置かれることとなる。特に、これまでの野外研究結果から、応答の形態的可塑性がダケカンバの回復特性を示すことが考えられた。この特性が有利な点は、他種との光または物質(水・炭素、窒素、リンなどの主要元素)の競争過程の影響を受けることが少なく、各個体葉の形態的応答に準拠するという意味で、極めて合理的である。このような生態的特性を将来の炭素動態モデリングに加味するアプローチは多くなく、したがって、本課題の遂行は重要な生態系回復プロセスを加味したモデル化の実現が期待されるという点で意義があると考えられる。 本年では、本課題枠ですでにえられている観測的知見を有効に活用し、将来の気候変化で頻度増が予想される極端気象に対する生態系応答予測をするモデルリング研究を進めることとなる。この課題に向けて最終年となる現在において、モデルのコーディングについてはすでに成功させた。当初はこのモデリング作成において、下層植生の影響なども加味する必要性が検討された。しかし、実際に行われた野外調査の結果を受け、同樹木の生態系応答において下層植生の影響を考慮する必要性は小さいと判断された。ここまでの経過を受け、課題の達成状況は順調であることを記載する。
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