2019 Fiscal Year Research-status Report
微量金属と軽元素安定同位体を用いた農産物・食品安全の生育環境トレーサビリティ研究
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16K00519
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
伊永 隆史 東京大学, 環境安全研究センター, 客員研究員 (30124788)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
手束 聡子 千葉科学大学, 危機管理学部, 准教授 (70435759) [Withdrawn]
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2021-03-31
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Keywords | 同位体分析 / 安定同位体比 / 質量分析 / 食品 / コメ / 漢方薬 / 農産物 / 植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究代表者は、5月31日~6月8日科研費により中国出張、大連海事大学環境科学技術学院劉暁星教授等と日中セミナー 開催、中国産コメ試料採取などの研究を遂行してきた。 本研究では、安定同位体比質量分析(IRMS)において、水素(D / H)、炭素(13C / 12C)、窒素(15N / 14N)、酸素(18O / 16O)、硫黄(34S / 32S)などの安定同位体の存在比の小さな変化を追跡する。同位体比分析では、日本産と中国産のコメ産地における成長環境を特定するために広く使用できることを明らかにすることを目的に計画された。IRMSは、水素、炭素、窒素、酸素、硫黄の安定同位体比を使用して革新的なトレーサビリティシステムを構築し、米、肉、魚、野菜、果物などの地理的起源を説明できる。評価結果のいくつかの例、日本の新潟県産コシヒカリ米の安定同位体比を用いた生育環境δD、δ13C、δ15N、δ18Oの4つの要素で分析された新潟米は、新潟産コシヒカリ米の生育環境である成分として統計的に処理された。地域間の成長環境を区別することはほぼ可能であることが分かった。日本の米サンプル2300の安定同位体比データに基づいて、中国産コメ試料の成長環境要因の証拠として安定同位体比が使用できることを実証した。 研究成果は、日本分析化学会機関誌ぶんせき2019年4月号に掲載され、「食品の同位体分析」の進歩総説として学術的啓蒙に役立てることができた。 欧州エルゼビア出版社からの出版依頼にも対応し、2019年4月にEMERGING TRENDS AND DEVELOPMENTS IN BEVERAGE SCIENCEが出版され、"Biochemical Stable Isotope Analysis for Advances in Food Authenticity"として食品安全分野の世界的啓蒙に期待された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
中国産コメ試料については、水素(D/H)、炭素(13C/12C),窒素(15N/14N),酸素(18O/16O),硫黄(34S / 32S)の安定同位体比5種、および微量金属元素に関して、同位体比質量分析装置(IRMS)または誘導プラズマ質量分析装置(ICPMS)により精密分析を行うと同時に、データの信頼性を担保するため委託によるクロスチェックを行う計画とした。 しかしながら、本科研費による中国・大連海事大学出張での所定の研究成果を上げて、帰国前夜に大学ゲストハウスで転倒し、左足首を脱臼・骨折した。現地の大学病院で応急処置を受けて帰国し、日本の大学病院で手術・入院した。その際、転倒の原因となった両脚股関節も全置換手術が必要と診断され、6~8月は入院せざるを得なかった。退院後もリハビリ等に3月余を要し、当初計画が半年以上遅れる不運な1年となった。 回復後ただちに、本研究を鋭意再開し、中国遼寧省および黒竜江省産のコメ試料について、本年度において専門機関による安定同位体比質量分析、微量金属分析のクロスチェックに充当し、精度管理に成功し計画をほぼ達成した。しかし、本科研費を通じて蓄積した研究成果を外国書籍および国内専門誌で刊行することはほぼ達成したが、国際会議または国内学会で研究発表して本成果を世界へ普及する当初の計画は、2回の手術・入院等のため一部を達成できずに終わった。 よって、研究計画を1年延長し、令和2年度にさらなる研究と発表活動を継続し、研究成果の普及に努めたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
農産物・食品中で日本産コメ2300サンプルを収集し、異常気象データを除外した素性の正しい安定同位体比データベースを構築することに成功した。その後、西安交通大学の協力で収集した中国産コメ17サンプルの適用結果を含め、2017年西安交通大学で開催された国際会議で招待講演した。その際、米国人座長から賞賛され、中国産の漢方薬で未解決課題となっている生育環境と薬効との関連性を解決する手段に安定同位体比や微量元素組成が有望と示唆された。 その上で、米国人座長から漢方薬冬虫夏草の西安交通大学医学部及び葯学院との国際共同研究を推奨された。中国・国立重点大学の西安交通大学は「一帯一路」政策の拠点大学でもあるため、葯学院・王副院長は本研究に乗り気で、伊永が日本で教授した周教授と張教授らを配したプロジェクトを政府へ申請する準備を進めている。日本でも、伊永が現在在籍する東京大学を中心に中国産冬虫夏草の薬効作用に関し、有効成分のみならず、生育環境における安定同位体や微量金属との関連性を統計学的手法により解析すれば、薬効との相関関係を高められ因果関係を解明できると考え、新しい基盤研究の着想に至っている。 しかしながら、新型コロナウイルス感染症の禍が蔓延している現状を鑑みると、定常的な実験研究場の確保も容易ではなく、海外はもとより国内移動も感染リスクを伴い、国の緊急事態宣言も発出されたため、令和2年度前半は国内外の移動を伴わない研究計画を中心とし、5月末の緊急事態宣言の解除に伴い年度後半には国際化学会議、国内学会等で研究発表を行い、本科研費による基盤研究成果を国内外へ学術的に普及させる計画を立案できる見通しである。
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Causes of Carryover |
本年度において、本科研費により中国・大連海事大学出張中に左足首を骨折し、日本で手術を受け入院した。続けて、転倒・捻挫・骨折の原因となった両脚股関節の全置換手術を受けたため、リハビリも含めて約半年間にわたって本研究に従事できない日々が生じた。 そのため、研究費の使用にも遅れが生じ、231,666円の未使用額が発生したものである。 令和2年度において、使用可能な231,666円については、主に専門機関による安定同位体比質量分析のクロスチェックによる精度管理研究のために充当する一方、本研究成果を国際会議等で学会発表する経費にも充当する見込みである。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の世界的蔓延により、国際会議の開催が危ぶまれることも想定されるため、やむを得ない場合には国内学会で発表する。なお国内移動も困難となった場合には、ほぼ全額をコメ試料の同位体比・微量金属分析等の精度向上に関する科学的検討に使用する計画を考えている。
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