2016 Fiscal Year Research-status Report
北極温暖化増幅及び東南極温暖化抑制における雲・海氷の役割に関する研究
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16K00523
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
山内 恭 国立極地研究所, その他部局等, 名誉教授 (00141995)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地球温暖化 / 北極 / 東南極 / 雲 / 海氷 / 長波放射 / 極渦 / 気団 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球温暖化の中での北極域の温暖化増幅と東南極温暖化抑制における雲と海氷の役割を明らかにすることが目的である。 平成28年度は、平成25年以来、GRENE北極気候変動研究プロジェクトでスバールバル・ニーオルスンに整備された雲レーダーを中心に観測データの解析を行い、ニーオルスンの気候と雲の関わりを調べた。冬のスバールバルは、北極気団の中で寒冷な時期と大西洋からの海洋性気団に覆われて温暖な時期とがあることが、以前の研究(Yamanouchi and Orbeak, 1995)で指摘されているが、10月~3月の冬半年の長波放射の変化を解析することで、あらためて確認した。 既に、正味の長波放射の絶対値が小さい時と大きい時があり、曇天か晴天かに対応しているという結果が報告されているが、ここでは正味放射ではなく、下向きの長波放射そのものをみることで、単に曇り、晴れの違いを越えた大きな違いがある。それは大規模な大気循環場の違いー極渦の内外の違いーで起こることが明らかになった。即ち、各々の状況の中で曇り晴れの違いが重なっており、2重の大きな違いになっている。この場合に現れる雲について、雲レーダデータから、温暖湿潤な海洋性気団の中での厚い雲と寒冷な北極気団の中では薄い層状性の雲が現れ易いという違いがあることが示された。この顕著な2値をもつことが大西洋側北極の冬の気候の特徴になっている。 一方、南極では,第58次観測隊により、大陸氷床上斜面のS17地点で集中観測が行われ、その中で、高層気象ゾンデ観測等で大気の鉛直構造と雲の出現等を対比させるデータが取得された。夏期間に限られるが、様々な気象場の中での雲の出現特性と気象状況との対比が期待できる。データの詳細な解析は29年度以降となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
北極スバールバル・ニーオルスンの観測データ解析が進み、一定程度の結論まで到達することができている。雲そのものについては、詳細な解析は未だ途中であるが雲レーダ、マイクロパルスライダー等データの取得は少なくとも2013年以降続いており、少なくとも3年分のデータの蓄積がある。放射データは1991年以来の長年の蓄積がある。現在までは事例解析的な段階にあるが、これらによって、さらに系統的な解析処理を重ねることで、結論をより確からしいものにすることが期待される。 この研究の進展には、過去の研究成果(Yamanouchi and Orbeak, 1995)が生かされたこと、そして新しく出された研究(Yoshimori et al., 2017)が大いに貢献している。スバールバルの冬の気候に顕著な2つの状態があることは前者がきっかけとなって解明されたものであり、一方、この2つの状態のうち、より温かい状態が顕著になってきていることは、後者、Yoshimori et al. によってモデル研究から示された、「低・中緯度からの熱・水蒸気輸送が北極温暖化増幅に貢献している」との仮説を具体的な現象で説明することにつながった。即ち、温暖、湿潤な大西洋海洋性気団が流入することにより、雲が発達し、水蒸気の増大と併せて下向き長波放射を増大させ、その結果大きい放射強制力により温暖化をもたらすことになっている。つまり、北極域内という局所的な場の中での雲のフィードバックが主として効いているのではなく、低・中緯度からの熱・水蒸気輸送が北極域内での雲・水蒸気の働きを増大させて温暖化増幅に効いているという筋が明らかにされた訳である。北極温暖化増幅における雲の役割の解明に到達することができている。 初期的発表、南極の雲と放射についてのレビュー執筆によって、研究の基盤が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
冬の北極気候に2つの顕著な状態がある事、それが北極温暖化増幅の実態を説明する要素になっていること等が明らかにされたが、その時に現れる雲については、概要をとらえたにとどまっている。混合相雲の問題、低層の層雲の働きなど課題が多く存在し、今後、雲レーダーおよびマイクロパルスライダーのデータから、雲のマクロな物理、微物理の詳細の解析を進めることにより、北極の雲の働きの明確化をはかる。また、気象場についても、事例解析にとどまっていることから、より広範なデータに基づく統計的な処理も進める。ERA-Interimなどの資料の利用を予定している。その他、衛星データの援用も検討しており、衛星から求めたより広域の雲分布から、この状況が説明できるかを調べる予定である。 南極における雲の働きの解明については、2つの方向性を考えている。一つは、上述したように、平成28年から29年にかけてのシーズンに南極で実施された現場観測データの解析を進めることで、現場観測に立脚した雲の働きを抽出する計画である。特に高低気圧といった総観気象場やカタバ風の状況、より大規模大気循環場との関連等をおさえ、熱や水蒸気流入との関連を考察する。 もう一つは、長年の昭和基地における放射や雲観測データに基づき、北極で示された冬の気候の2値について、北極同様の現象が捉えられるか、あまりそのような状況が当てはまらないのか、まずは検討する。これまでも、Hirasawa et al. (2000)の研究以来、ブロッキングに伴う低緯度側からの暖気流入により多量の熱や水蒸気が南極氷床に持ち込まれる現象が注目されているが、まさに北極で見られた冬の暖気流入と同種の現象と考えられる。南極でも、北極同様、この現象の増大が温暖化増幅に寄与し得るものか、当てはまらないものか、大変興味あるポイントである。
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Causes of Carryover |
一部国際学会参加費を別費目で支出したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度の学会参加費の一部に充当する。
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