2017 Fiscal Year Research-status Report
汎用的な海水中溶存有機物態放射性炭素分析システムの開発
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16K00527
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Research Institution | Japan Atomic Energy Agency |
Principal Investigator |
乙坂 重嘉 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力基礎工学研究センター, 研究主幹 (40370374)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川 浩史 東京大学, 大気海洋研究所, 准教授 (50260518)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 化学海洋 / 溶存有機物 / 放射性炭素 / 加速器質量分析 / 物質循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
海水中の溶存有機物を構成する炭素(Dissolved Organic Carbon: DOC)の総量は、大気中の炭素量に匹敵することが知られており、海洋におけるDOCの循環を正しく把握することは、地球表層での炭素循環に関する理解を深める上で不可欠である。その方法のひとつとして、海洋のDOCに含まれる放射性炭素(C-14)の同位体比を加速器質量分析装置(AMS)によって精度よく分析し、その年代を決定することで、海洋での溶存有機物の分布に時間軸、すなわち、溶存有機物の分解速度や、海域間での移動時間等の情報を得ることが可能である。近年、AMSは国内外の多くの研究機関に積極的に導入されている一方で、海水DOC中のC-14については、その分析の煩雑さから、その報告例が極めて限られている。本研究では、安全で取扱いの容易なDOC-14の分析・計測手法を開発し「標準法」として整備することにより、海洋における物質循環研究を加速化・複層化させることを目的としている。 平成28年度は、従前の方法に比べて供試料量を1/8まで低減させた海水中有機物の分解装置を試作し、有機物分解の効率を最大とするための改良を加えた。さらに、幅広いC-14同位体比を持つ3種類の溶存有機物試料について、実試料を模擬した試料を処理後、AMSによるC-14同位体比計測を行い、得られた結果が推奨値と一致することを確認した。 平成29年度は、海洋調査で得た海水試料を上記の装置で処理し、先行研究で得ているC-14同位体比との比較等によって装置の性能を検証した。海水への紫外線照射によって生じる塩素ガスによるC-14同位体比への影響が見られたため、問題点を改善し、装置の一次版を完成させた。さらに、幅広いDOC濃度およびC-14同位体比を持つ海水試料への本法の適用を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、(a)溶存有機物分解装置の試作、(b)供試料量の低減のための改良、および(c)標準試料を用いた分析システムの性能検証を実施した。 (a)では、本課題におけるDOCのC-14同位体比測定の基本原理として、試料水に紫外線(UV)を照射して生じた二酸化炭素を回収・精製し、C-14同位体比をAMSで計測する方法を採用した。UV光源にエネルギー効率の高い低圧水銀ランプを導入することにより、有機物分解効率の向上と装置の小型化を実現した。(b)では、生成させた二酸化炭素を黒鉛に還元させる工程で用いる器材の小変更により、反応効率を向上させた。(c)では、上記で試作した装置を用いて、標準試料中のDOCを抽出・精製し、概ね十分な回収率が得られることを確認した。 平成29年度は、(d)模擬海水試料を用いた溶存有機物分解装置の試験、(e)試料処理容器・ラインからの炭素混入防止のための改良を実施した。 (d)では、海水と同程度の塩分の模擬海水を用いて装置動作を試験し、得られた二酸化炭素中のC-14同位体比をAMSで計測した。結果として、試料に含まれている炭素以外に、石油由来および大気由来の炭素(計30マイクログラム程度)が試料処理工程で混入したことが示唆された。前者は、海水から発生する塩素ガスにより容器の樹脂部品の一部が分解したこと、後者は、塩素除去で用いる試薬(ヨウ化カリウム)の保管中に吸着した大気由来の炭素が、交換反応によって脱離したことが原因であることがわかった。このため、(e)において、樹脂部品の使用量が最小限となるよう設計変更するとともに、ヨウ化カリウムの酸処理により「汚染源」となる炭酸塩を事前に除去することで、問題点を改善した。以上により、従前に比べて少ない試料量で、安全な試料分析が可能となったため、ここまでの開発状況を公表した。
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Strategy for Future Research Activity |
1.「標準法」の提案と利用促進: 有機物分解装置の操作手順、メンテナンス、器具類の洗浄方法、等をまとめたプロトコルを作成する。試料の採取・保存やAMS計測を含めた一連のシステムを「標準法」としてまとめ、放射化学や海洋学の専門家によるレビューを経て公表する。同システムの汎用性を高めるため、所属機関以外でのAMS施設以外での利用を促す。
2. 海洋物質循環研究への適用: 溶存有機物をキャリアとして海洋を循環する様々な物質の動態解明において、「時間軸」の情報を得るための基盤技術として、本法の利用を促す。学術研究船「白鳳丸」等による北太平洋、日本海、オホーツク海での調査航海で採取予定の海水試料について、本課題で提案する手法を適用する。特に、全海洋で最も溶存有機物濃度及びC-14同位体比が低いと考えられる中央北太平洋の深層水について、優先的に分析を終了させ、結果を速報する。
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Causes of Carryover |
(次年度使用額が生じた理由) 平成29年度に実施した分析試料の前処理方法の改良に伴い、次年度購入予定の消耗品(真空用ガラスライン部品の一部)を前倒しで平成29年度に購入し、平成29年度に購入を予定していた消耗品を次年度に購入することとしたため、当初計画に対して消耗品費の支出額に変更が発生し、次年度使用額が生じることとなった。
(使用計画) 平成29年度に購入を予定していた消耗品の購入に使用する。
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Research Products
(1 results)