2017 Fiscal Year Research-status Report
大気から南大洋域へ供給される生物に利用可能な鉄の変動要因の解明
Project/Area Number |
16K00530
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
伊藤 彰記 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 気候モデル高度化研究プロジェクトチーム, 主任研究員 (00419144)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 地球環境変化 / 大気由来の水溶性鉄沈着 / 燃焼起源エアロゾル / 鉱物起源エアロゾル / 全球エアロゾル化学輸送モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、製鉄工程などから排出される燃焼起源の黒色酸化鉄が気候に影響を与えうるほどの大気加熱効果を持つことが報告された。しかし、どの国のどのような発生源がどれだけの大気加熱効果をもたらすのかは分かっていなかった。本研究では、全球大気化学輸送モデルを用いることにより、燃焼起源の酸化鉄粒子濃度の再現に成功した。さらに、大気中でのエネルギー収支を計算する放射伝達モデルを用いることにより、燃焼起源の酸化鉄粒子による大気加熱効果の指標となる放射強制力を、排出インベントリをもとに算出した。この結果、この酸化鉄粒子は黒色炭素性粒子に比べて、東アジアなど鉄鋼業が急速に発展してきている地域で特に大きい大気加熱効果をもつことを示した。その結果から、人為起源の黒色酸化鉄粒子は、新興国での急速な経済成長による重工業でのエネルギー消費に伴い、温暖化や水循環変化の一因として重要になる可能性が示唆された。今後、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価報告書で考慮される大気加熱・冷却物質の更新など、気候変動の数値予測に伴う不確実性を低減し、より有効な温暖化緩和策へ貢献することが期待される。この研究成果は、国際的に先端的な研究が掲載される学術誌で主著の論文として掲載された。 招待されたEGU2018で口頭発表を行った。国際プロジェクトと連携し、他の数値モデルや観測の専門家と行っている共同研究結果を議論した。招待されたPAGES-DICEのワークショップで口頭発表を行った。国際プロジェクトと連携し、観測の専門家と共同研究を行うことになった。日本エアロゾル学会、海洋大気エアロゾル研究集会「大気-海洋境界層における大気物質の役割」に招待されたセミナーでは本研究成果を含めた講演を行った。国際学会(Goldschmidt)で座長とコンビーナーを担い、学会活動へ貢献した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
衛星データと陸域生態系モデルなどを用いた植生燃焼過程の改良を行った。その研究を基盤とした成果が、Scientific Reportsに掲載された。 海洋環境保護の科学的側面に関する専門家会合(GESAMP)のWorking Group 38 では「The Atmospheric Input of Chemicals to the Ocean」に関する研究活動を推進している。現在、「Changing Atmospheric Acidity and the Oceanic Solubility of Nutrients」に関する研究プロジェクトが進行中である。エアロゾル中の鉄溶出過程に関して、屋外観測、室内実験および数値モデルに関する先行研究を調査し、共著者として総説にまとめた(論文執筆中)。数値モデルの相互比較を行い、現状の数値モデル間の相違点について解析した(論文執筆中)。数値モデルと観測結果を比較し、鉄溶出過程にとって重要な大気中の酸性度など、数値モデルの改善点を検討した(論文執筆中)。 当初予期していなかった実験結果が得られた原因を調査した。そして、どのような室内実験が必要かを研究協力者と継続して議論した。2017年3月1日にバーミンガム大学を訪問し、研究打ち合わせを行ったことが、研究推進に大きく寄与した。 中国の風下にあたる海域では、栄養塩として窒素が重要になると考えられる。そこで、全球エアロゾル化学輸送モデルを用いて、アジア域から海洋生態系へ供給される窒素量を推定した。このような取り組みから、人為起源の栄養塩供給量が海洋生態系へ与える影響評価の研究に貢献した(論文執筆中)。
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Strategy for Future Research Activity |
最も優先すべきは、執筆中の論文を投稿することである。そのうちの主著に関しては、国際プロジェクトを通した船上観測データセットの取得を行ってきた。それら観測データと自身の全球数値モデルに他のモデルを含め、統計的手法を活用して、解析する。他の全球数値モデルを含めることで、さまざまな発生過程および変質過程における条件設定の違いによる数値モデルを用いた感度実験とみなすことができる。その際、数値モデルによる予測値が観測データと整合性が良い条件を抽出する。その結果を解析することによって、南大洋域での水溶性鉄供給速度を変動させる支配的な要因を検討する。今後の研究課題として、潜在的な発生源を示唆する。さらに、海洋研究開発機構などにおいて屋外観測を専門とする科学者たちと双方的な議論を行うことで、数値モデルを検証し、改良するために必要な観測計画を立案する。 統合的気候モデル高度化研究プログラムの貢献として、本研究で排出インベントリをもとに算出した燃焼起源の鉄発生量を地球システム統合モデルへ提供する。このような国内の地球システムモデルのみでなく、海外共同研究者が提案するプロジェクトでは、本手法が海外の地球システムモデルへ組み込まれる計画が提案されている。 Goldschmidt国際会議などで、研究協力者が進行中の室内実験を継続して議論する。
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Causes of Carryover |
当初、今年度に予定していた論文出版費が次年度初めになった。また、海外研究協力者が英語を母国語とするため、英文校閲を取りやめた。 主著論文を担当している国際プロジェクト(GESAMPおよびPAGES - DICE)で、海外研究協力者と議論を行うために、ICAR国際会議で口頭発表、TSRC国際会議で招待講演、Goldschmidt国際会議で招待講演などの旅費として使用する計画である。
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[Presentation] The GESAMP global model intercomparison: Evaluation of labile iron in aerosols2018
Author(s)
Ito, A., S. Myriokefalitakis, M. Kanakidou, N. Mahowald, R. A. Scanza, A. Baker, T. Jickells, M. Sarin, S. Bikkina, Y. Gao, R. Shelley, C. Buck, W. Landing, A. Bowie, M. Perron, N. Meskhidze, M. Johnson, Y. Feng, R. Duce
Organizer
EGU General Assembly 2018
Int'l Joint Research / Invited
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[Presentation] Evaluation of labile iron formation in the atmosphere2018
Author(s)
Ito, A., S. Myriokefalitakis, M. Kanakidou, N. Mahowald, R. A. Scanza, A. Baker, T. Jickells, M. Sarin, S. Bikkina, Y. Gao, R. Shelley, C. Buck, W. Landing, A. Bowie, M. Perron, N. Meskhidze, M. Johnson, Y. Feng, R. Duce
Organizer
2018 Ocean Science Meeting
Int'l Joint Research
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[Presentation] Evaluation of labile iron processing in atmospheric models2017
Author(s)
Ito, A., S. Myriokefalitakis, M. Kanakidou, N. Mahowald, R. A. Scanza, A. Baker, T. Jickells, M. Sarin, S. Bikkina, Y. Gao, R. Shelley, C. Buck, W. Landing, A. Bowie, M. Perron, N. Meskhidze, M. Johnson, Y. Feng, R. Duce
Organizer
Goldschmidt 2017
Int'l Joint Research
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