2018 Fiscal Year Research-status Report
北極海の海氷減少による海洋環境、プランクトン変動の実態解明
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16K00533
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
伊東 素代 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 北極環境変動総合研究センター, 技術研究員 (60373453)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 北極海 / 海洋物理 / 海洋生態 / 環境変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
現場観測としては、2018年10月にカナダ沿岸警備隊砕氷船「ローリエ号」にて、北極海チャクチ陸棚域の4系の係留系の回収を行った。2016-2017年度と同様に、1年間の良好なデータを取得することに成功した。また、ほぼ同じ構成の係留系を4系再設置し、2019年8月の回収時まで更に1年間データ取得を継続する予定である。これらのうち2系の係留系では、係留式クロロフィルセンサーを取り付け、動物プランクトンの餌となる植物プランクトンの変動を同時に把握するためのデータ取得を継続して行っている。また、2018年9月、10月にアメリカ沿岸警備隊砕氷船「ヒーリー号」で、バロー海底谷の3系の係留系をつなぐ断面で、船舶による水平、鉛直的に高解像度な横断断面観測を実施した。
これまで取得した観測データの解析については、バロー海底谷における海洋環境、植物、動物プランクトンの長期変動を、係留系による海洋環境やADCP音響データ、人工衛星データを用いて明らかにする解析を行い、査読付き英文雑誌に投稿中である。
また、係留式クロロフィルセンサーで取得した植物プランクトンデータとADCPから得られた音響による動物プランクトンデータの解析を進めている。北極海のように船舶観測時期が夏季に制限される海域では、係留系による時系列データ取得は非常に有効である。人工衛星による植物プランクトンデータは開水域に限定されるため、近年注目されている海氷下での植物プランクトンのブルームを捉えるには、本研究で実施した係留式クロロフィルセンサーによるデータ取得は有効である。また現場観測が少ない北極海では、船舶からのネットによる動物プランクトンのサンプルから、長期変動の解析に資するデータを得るのは難しいのが実情である。そのため、音響データを用いた、動物プラン クトン量の復元、長期変動の解明は、有効なアプローチ方法である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現場観測については、2018年10月の北極海チャクチ海の4系の係留系の回収、再設置とも予定通り実施することができた。回収した係留系のデータは全て良好で、 本科研費予算で観測している係留式クロロフィルセンサーの観測も成功し、通年の時系列データが取得できた。他の係留センサーと共にクロロフィルセンサーも再度、2018年10月から予定通り、係留観測を継続しており、2019年8月まで、更に1年間の観測データを取得中である。
データ解析については、近年の北極海の海氷減少によって起こった、バロー海底谷における10年規模の海洋環境、植物、動物プランクトンの変動に関する研究成果を査読付き英文雑誌に投稿中である。バロー海底谷では2010年代は2000年代に比べて、植物プランクトン量の増加が起こり、餌環境の改善と水温の上昇によって動物プランクトンも増加していることや、植物プランクトン、動物プランクトン共に増加しているが、動物プランクトンの補食圧の増加が上回るため、底層生物へ有機炭素の供給量はむしろ減少している可能性が示唆される結果が得られた。
また、2016年から開始した係留式クロロフィルセンサーから取得した植物プランクトンデータは、バロー海底谷を含む2地点で、2年間の通年の時系列データが得られた。既に着手していた季節変動、空間変動の解析に加えて、経年変動や、海氷・海洋環境との関係性の海域や年による違いを明らかにするための解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
現場観測については、当初の予定通りに2019年8月にアメリカ沿岸警備隊砕氷船「ヒーリー号」の航海で、現在係留中の4系の係留系の回収、再設置を行う。また、係留点を繋ぐ観測線で、水平、鉛直的に高解像度な横断断面観測を行う予定である。更に、2019年7、9月にカナダ沿岸警備隊砕氷船の航海で、船舶による水平、鉛直的に高解像度な、バロー海底谷の横断断面観測を行う予定である。アメリカ砕氷船には研究代表者が乗船し、カナダ砕氷船にはカナダ海洋科学研究所の共同研究者が乗船して、観測を実施する計画である。
データ解析については、(1)北極海の急激な環境変化による10年規模の動物プランクトン量の増加に関する成果は、現在、査読付き英文雑誌に論文を投稿中であり、2019年度中の掲載を目指す。(2)2019年1月に回収予定の係留系からは、北極海の複数の係留点で3年分の係留式クロロフィルセンサーの観測データが得られる計画である。2018年度までに取得したデータから、海氷が融け切る前から植物プランクトン、動物プランクトンの増加が起こっていることが明らかになりつつある。新たな通年の係留観測データを加えることで、人工衛星や船舶による観測が難しい現場が海氷に覆われている時期も含めた、植物プランクトン、動物プランクトンの季節、経年変動の関係、その海域による違いの解析を更に進めていく計画である。
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Causes of Carryover |
年度内に論文掲載に至らなかったため、論文掲載費用として計上していた予算が未使用となった。論文は投稿中であるため、掲載費用として支出する計画である。
複数の観測目的でカナダ沿岸警備隊砕氷船に乗船し、航海参加の旅費は本科研費からは支出しなかったため、外国旅費として計上していた予算が未使用となった。論文掲載後に国際学会での発表を予定しているため、外国旅費として支出する計画である。
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[Journal Article] Seasonal to mesoscale variability of water masses and atmospheric conditions in Barrow Canyon, Chukchi Sea2019
Author(s)
Pickart, R., C. Nobre, P. Lin, K. Arrigo, C. Ashjian, C. Berchok, L. Cooper, J. Grebmeier, I. Hartwell, J. He, M. Itoh, T. Kikuchi, S. Nishino, and S. Vagle
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Journal Title
Deep Sea Research Part II
Volume: in press
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Journal Article] Winter water formation in coastal polynyas of the eastern Chukchi shelf: Pacific and Atlantic influences2018
Author(s)
Hirano, D., Y. Fukamachi, K. I. Ohshima, E. Watanabe, A. R. Mahoney, H. Eicken, M. Itoh, D. Simizu, K. Iwamoto, J. Jones, T. Takatsuka, T. Kikuchi, and T. Tamura
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Journal Title
Journal of Geophysical Research
Volume: 123
Pages: 5688-5705
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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[Presentation] Jonaotaro Onodera, Eiji Watanabe, Kohei Mizobata, Yuichiro Tanaka, Motoyo Itoh, Naomi Harada Lateral advection of biogenic particles in the southwestern Canada Basin, Arctic Ocean2018
Author(s)
Onodera, J., E. Watanabe, K. Mizobata, Y. Tanaka, M. Itoh, and N. Harada
Organizer
JpGU2018 日本地球惑星科学連合2018年大会
Int'l Joint Research
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