2017 Fiscal Year Research-status Report
フィールドワークと先端的ベンチワークを融合した福島原発事故による遅延的影響の解析
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16K00537
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
鈴木 正敏 東北大学, 災害復興新生研究機構, 助教 (60515823)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 福島原発事故 / 遅延的放射線影響 / 長期放射線被ばく / 野生ニホンザル / 細胞樹立 / iPS化 |
Outline of Annual Research Achievements |
放射線照射後に生存する一部の培養細胞の中には、数十回以上の細胞分裂を続けるうちに、照射直後にはみられなかった異常や細胞死が誘導される、遅延的影響を示す細胞が出現する事が知られている。福島原発事故による低線量・低線量率長期放射線被ばくが遅延的影響を誘発する可能性を検討するために、本課題では福島原発事故による放射性物質汚染地域に棲息している野生ニホンザルから、放射性セシウムが最も多く蓄積する骨格筋由来培養細胞を樹立し、細胞培養を継続する中で遅延的不安定性の発現に関する検討を実施した。 福島県内の放射性物質汚染地域で捕獲された野生ニホンザルから大腿筋を取り出し、ニホンザル組織に最適化された培地中に細切した大腿筋を入れて培養し、初代細胞が培養ディッシュ上にはりつき、試験可能な細胞数に増殖するまで定期的に培地を交換しながら組織培養を行った。野生動物組織を用いた組織培養のためにバクテリアの混入などが昨年度の課題であったが、本年度はバクテリア混入に関する問題を克服した事から、昨年度よりも細胞樹立の成功率が画期的に上昇した。組織培養開始から初代培養細胞が培養ディッシュにはりつくまでに約1ヶ月、その後の1ヶ月で局所的に細胞が増殖して細胞集団を形成し、細胞を捲き直して一定数の細胞を確保するまでに更に1ヶ月程度と、組織培養開始から初代培養細胞を確保するまでに最低3ヶ月程度要する結果となった。得られた細胞は凍結して保管する他に、細胞増殖を継続させた結果、数回の継代後に細胞老化を誘導する事で細胞増殖が停止した事から、細胞を確保した直後にiPS化操作を行う必要性が明らかとなった。また、細胞樹立後にDNA二重鎖切断の指標としてリン酸化H2AXと53BP1を可視化する蛍光免疫染色を行った結果、放射線被ばくの有無に関わらず損傷数や誘発頻度に差が見られず、検出されたフォーカスは細胞老化に起因するものであった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題で基盤となる福島原発事故汚染地域の野生ニホンザルから初代培養細胞を樹立、凍結保管できるまで研究試料を確保できる方法を確立できた。この試料中には、これまで入手できた野生ニホンザルの体内放射性セシウム濃度の範囲を幅広く網羅できており、低線量・低線量率放射線に最大6年間の被ばく試料を確保できた事になる。また、ニホンザル由来細胞で使用可能である事が確認できた抗体などの研究試薬を選別できた事から、次年度の解析を進める土台や試料について準備が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに入手した試料を用いてiPS化を進め、遺伝的不安定性を惹起する個体を特定する。細胞を樹立した個体の大腿筋放射性セシウム濃度の測定が完了している事から、細胞樹立までの被ばく線量および被ばく線量率を推定する事が可能である。被ばく線量・線量率と遺伝的不安定性誘発頻度の相関について、本年度選別した分子・細胞生物学的マーカーを用いて解析を進める予定である。
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Research Products
(2 results)