2017 Fiscal Year Research-status Report
アセチル化を介したクロマチンとゲノム損傷応答のダイナミズム
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16K00544
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
井倉 正枝 京都大学, 放射線生物研究センター, 研究員 (40535275)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | DNA損傷応答 / アセチル化 / TRRAP / ATM / TIP60 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、TIP60によるH2AXのアセチル化が、これまで知られているH2AXのリン酸化に加えてDNA損傷応答シグナルの活性化に関与していることを明らかにしてきた。しかしながらTIP60によるH2AXのアセチル化が、DNA損傷領域において如何に維持され、増幅されるのか、そして既知のH2AXのリン酸化シグナルカスケードと如何なる関係にあるのかについては明らかにされていない点が多い。この課題に対して、我々は、TIP60複合体の構成因子であるTRRAPに着目して研究に取り組んできた。今年度は、H2AX-Flag-HA遺伝子を安定に発現させた細胞にTRRAP siRNAとmock siRNAを遺伝子導入し、放射線照射後、クロマチン分画を調製し、これらの細胞のクロマチン分画をMNaseで処理して、H2AX を含んだ ヌクレオソームを精製した。コントロール細胞では、DNA損傷依存的に増加するH2AXとH4のアセチル化が、TRRAPのノックダウン細胞では抑制されていることが、ヒストン化学修飾に対する抗体を用いたWestern Blotting法で明らかになった。さらにDR/GFP カセットを導入した細胞にTRRAP siRNAとmock siRNAを遺伝子導入し、I-Sce I によって誘導されるDNA二本鎖切断領域のヒストン化学修飾の状態をヒストン化学修飾の抗体を用いたクロマチン免疫沈降法によって検討し、先の生化学的解析と同様に損傷で誘導されるH4のアセチル化が抑制されることを確認した。また今回、TRRAP因子の化学修飾を見出し、その修飾部位を認識する抗体の作製を行った。この修飾は、今回の損傷領域でのH2AXおよびH4のアセチル化の増幅に関与している可能性があり、現在、その修飾部位を変異させたTRRAP変異体遺伝子を作製し、細胞への遺伝子導入を試みている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、当初の予定通り、TRRAPが、DNA損傷依存的に変化するH2AXとH4のアセチル化に関与することを生化学的解析とDR/GFP カセットを導入した細胞を用いたクロマチン免疫沈降法によって示すことに成功した。また今回、TRRAP因子の化学修飾を見出し、その修飾部位を認識する抗体の作製を行った。この修飾は、当初の予定では想定されたものではなかったが、TIP60との結合特異性あるいは、TIP60との結合能の増強など、今回の損傷領域でのH2AXおよびH4のアセチル化の増幅に関与している可能性があり、TRRAPが、如何なる分子メカニズムでDNA損傷領域でのアセチル化の増幅と維持に関与しているのかについてより詳細な知見を提供してくれると期待している。現時点は、この修飾の意義は、不明であり、その成果は、今後の研究の結果に依存している。従ってこれまでの結果からTRRAPが、TIP60によるH2AXのアセチル化を介したDNA損傷応答シグナルカスケードに深く関与することが明らかになりつつあり、研究は、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究として、TRRAPは、DNA損傷領域でのヒストンH2AXおよびH4のアセチル化の維持と増幅を促すことが示されているという結果から、H2AXのリン酸化シグナルとの競合が想定されるが、この点を明らかにしていきたい。 我々は、I-SceIによるDNA二本鎖切断を誘導できるカセット(DR-GFP)を導入したU2OS細胞およびHeLa細胞を既に樹立している。これらの2種類の細胞を用いて、TRRAPをノックダウンさせて、DNA二本鎖切断領域におけるATMあるいはDNA-PKcsの集積、H2AXのリン酸化の影響をコントロール細胞と比較しながらクロマチン免疫沈降法で比較検討する。同時に放射線照射後のTRRAPをノックダウンさせた細胞とコントロール細胞とを比較して、H2AXのリン酸化を定量プロテオミクス解析で比較検討する。さらにこれらの実験結果を受けて、放射線照射後のTRRAPをノックダウンしたU2OS細胞でのH2AXのリン酸化の亢進が、クロマチン分画でのATMとDNA-PKcs の分子数の増加によるものかどうかを明らかにするために、定量プロテオミクス解析を行う。また今回、新たに見出したTRRAP因子の化学修飾についてもATMやDNA-PKcsの活性化への影響、そしてDNA損傷部位へのこれら因子のリクルートへの影響についても同様に検討を加えていく予定である。
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Causes of Carryover |
理由:昨年度は、TRRAPの化学修飾を認識する抗体の作製に予算を割り当てる必要が生じ、そのために定量プロテオミクスの実験が、少しずれ込んだことから、定量プロテオミクスに使用するペプチドの購入の必要性が生じた。また当初計画しているクロマチン免疫沈降の実験についてさらに検証を加える必要性が生じ、それに使用する抗体をさらに追加購入する必要性が出てきた。このような理由から次年度の使用額が生じた。 使用計画:TRRAPの化学修飾を認識する抗体の精製費用と定量プロテオミクスに使用するペプチドの購入費用、クロマチン免疫沈降の実験に使用する抗体の費用として使用する予定である。
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