2016 Fiscal Year Research-status Report
核内受容体を介した有機リン系難燃剤の免疫毒性作用に関する研究
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16K00558
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Research Institution | Gifu Pharmaceutical University |
Principal Investigator |
井戸 章子 岐阜薬科大学, 薬学部, 助教 (00336629)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
永瀬 久光 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (40141395)
中西 剛 岐阜薬科大学, 薬学部, 准教授 (50303988)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 有機リン系難燃剤 / PPARγ / RXRα / 核内受容体アゴニスト活性 / リガンド結合親和性 / 樹状細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
リン酸エステル類をはじめとする有機リン系難燃剤は最近多く用いられており、空気中に徐々に揮発することから、呼吸器や皮膚への慢性的な曝露による免疫関連疾患が疑われているものの、科学的データがほとんどないのが現状である。一方で申請者らはこれまでに、一部の有機リン化合物がPPARγアゴニスト活性を持つことを見出した。PPARγは免疫系においてマクロファージをはじめとする炎症細胞に発現し、細胞増殖やサイトカインの分泌調節を介して炎症反応の進展や免疫機構に関与していることが明らかとなっている。本研究では、有機リン系難燃剤のリスク評価を目的として、核内受容体を介した免疫機能への関与を明らかにするために検討を行っている。 平成28年度は核内受容体リガンド活性を有する有機リン化合物のスクリーニングを行った。代表的な有機リン系難燃剤であるリン酸トリフェニル(TPP)とよく似た構造を持つ有機リン化合物「Triphenylphosphine oxide (TPPO)」について検討したところ、hRXRαおよびhPPARγの両方にアゴニスト活性を持つことがわかった。しかし競合阻害実験より、TPPOはhRXRαおよびhPPARγに直接的には結合しないことが示唆される結果が得られた。 また、有機リン系難燃剤の獲得免疫に対する影響を検討するために、マウス由来樹状細胞株(DC2.4細胞)とモデル抗原として卵白アルブミン(OVA)を用い、被験物質が抗原提示細胞への分化や抗原提示能に及ぼす影響を評価する系を立ち上げた。有機リン化合物であるトリブチルスズ(TBT)およびトリフェニルスズ(TPT)は、既にRXRαおよびPPARγの強力なアゴニストであることがわかっている。そこで陽性対象としてTBTおよびTPTを用いて検討したところ、良好な結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、各種有機リン化合物の核内受容体リガンド活性スクリーニングを開始した。現時点では予定していたすべての化合物のスクリーニングは完了していないものの、実験系は確立しているため、今後も残りの化合物について順次進める予定である。 また、樹状細胞を用いた獲得免疫に対する影響の検討も進めている。DC2.4細胞をOVAで処理した際に、被験物質が抗原提示細胞への分化や抗原提示能に及ぼす影響を評価するための実験系を構築した。陽性対象として、RXRαおよびPPARγの強力なアゴニストであることがわかっているTBTおよびTPTを用いて、抗原刺激によりDC2.4 が分化成熟する過程で変動する表面抗原タンパク質の発現をフローサイトメトリーにより測定した。その結果、OVA刺激により増加した表面分子タンパク質(CD40、CD80およびCD86)の発現が減少した。さらに、その際のサイトカインの産生量をリアルタイムRT-PCR 法により測定したところ、炎症性サイトカインであるIL-12の有意な減少が確認された。よって、本実験系を用いることにより、有機リン系難燃剤の獲得免疫に対する影響を正確に評価できると考える。平行して、DC2.4細胞に対する各化合物の細胞毒性の評価を行い、曝露濃度を決めるための予備検討なども進めている。 よって、実験はおおむね順調に進んでいると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度以降も、各種有機リン化合物の核内受容体リガンド活性スクリーニングを順次進めていく。とくに現在わが国で難燃剤として用いられているリン酸エステルを中心に行う予定である。 また上記スクリーニングにおいて陽性であった化合物について、DCとOVAを用いた抗原提示能に対する影響を、平成28年度に構築した実験系を用いて検討する。OVA刺激によりDC2.4細胞が分化成熟する過程で変動する表面抗原タンパク質(CD40、CD80およびCD86)の発現、およびサイトカイン産生に対する被験物質の影響を、フローサイトメトリー、リアルタイムRT-PCR 法、ELISA 法により検討する。 さらに、DC2.4細胞移植実験によるマウス生体内での獲得免疫機能への影響についても検討を進める。被験物質に曝露された抗原提示細胞が、生体内において獲得免疫機能にどのような影響を及ぼすのかを確認するために、OVA および被験物質を曝露させたDC2.4 を野生型マウスに移植免疫後、経時的に採血し、血清中総IgG、IgE 抗体量、抗原特異的IgG、IgE 抗体量の変化をELISA 法により確認する。また、DC2.4 移入後のマウスから採取した脾臓リンパ球について、抗原特異的T細胞増殖の変化および、その際に産生されるサイトカインについて検討する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、平成28年度実施の核内受容体リガンド活性を有する有機リン系難燃剤のスクリーニングにおいて、リガンド応答性試験や結合親和性試験に使用する高額な試薬の購入を予定していた。しかし、今年度は本研究室に既存の試薬で実験を行うことができたため、使用額が予定よりも少額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度も引き続き有機リン系難燃剤の核内受容体リガンド活性スクリーニングを行うため、リガンド応答性および結合親和性の試験に用いる試薬の購入に使用する。
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Research Products
(5 results)