2016 Fiscal Year Research-status Report
微生物由来物質が誘発する海藻タンパク質発現変動の解明と水圏環境浄化への利用の研究
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16K00596
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
垣田 浩孝 日本大学, 文理学部, 教授 (40356754)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 海藻 / 水圏環境浄化 / 海洋資源 / 植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
Indole-3-acetic acid (IAA)等微生物由来物質の添加による海藻タンパク質発現変動の解析に影響を与える諸要因の一つである生物学的要因(個体差)の最小化のため、海藻を単藻培養株(大型海藻として単一種まで純化された株)まで純化する必要があった。そこで平成28年6月に徳島県内の水域で生育していた紅藻類オゴノリ科大型海藻の成熟藻体を採取し、成熟した部分を滅菌後、胞子を分離し、塩分濃度1.0%、2.0%、3.0%、4.0%、5.0%の人工海水中で静置培養を実施した。塩分濃度2.0%、3.0%、4.0%の条件でオゴノリ科海藻の直立体が得られた。一方、当該オゴノリ科海藻の成長は塩分濃度2.0%~4.0%の条件で可能であった。海藻成長と胞子発芽が広い塩分濃度で可能であることが明らかになった。藻体の赤色が鮮明で、コンタミが少ない直立体を選抜し、振とう培養、エアレーション培養を行い、本研究全般を通じて使用するオゴノリ科大型海藻単藻培養株を構築することができた。IAA添加実験は以下のように実施した。オゴノリ科大型海藻単藻培養株の頂端切片(5 mm長)をIAA濃度0 mg/L、0.16 mg/L、0.45 mg/L、2.5 mg/Lの人工海水中で培養し、湿重量及び二次元電気泳動によるタンパク質パターン比較を行った。頂端切片は培養実験前に抗菌剤混液中で滅菌処理を行った。IAAは水に溶けないため、あらかじめアルコールに溶解後に蒸留水で希釈し、各濃度のIAA液を調製した。IAA添加により海藻湿重量が増加したことからIAAは当該オゴノリ科海藻の成長を促進することが明らかになった。培養実験後の海藻からタンパク質画分を分離し、二次元電気泳動を行い、当該オゴノリ科海藻のタンパク質の電気泳動挙動を明らかにした。IAA等の添加の有無によるタンパク質変動に関しては次年度も引き続いて検討していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の成果は、第一に紅藻類オゴノリ科大型海藻の清浄な単藻培養株を構築することに成功したことである。単藻培養株とは大型海藻として単一種まで純化された株のことである。海藻タンパク質発現変動の解析をするためには単藻培養株が必要である。単藻培養株の利点はタンパク質発現変動解析に影響を与える諸要因の一つである生物学的要因(個体差)を最小化できるということである。また単藻培養株としては混入している微生物が少ないものが好ましい。微生物混入量が多いあるいはIAA等により異常増殖する微生物が混入していると、IAA等オーキシン添加による海藻タンパク質発現変動の解析が困難になってしまうためである。藻体の色が鮮明で、コンタミが少ない直立体を選抜し、振とう培養、エアレーション培養を行い、オゴノリ科大型海藻単藻培養株の増殖藻体を回収した。個体差が少ない部分として頂端切片(5 mm長)を用いてIAA添加実験を行った。初期の実験ではIAA添加後に微生物の異常増殖が起こり実験遂行困難になる場面に幾つか遭遇した。頂端切片をIAA添加実験前に抗菌剤混液中で滅菌処理を行うことにより、このコンタミ問題は解決できることを見出した。IAA添加実験でのオゴノリ科大型海藻単藻培養株の頂端切片(5 mm長)の湿重量増加はIAA濃度0 mg/Lよりも0.16 mg/Lで多いことから、IAAは当該オゴノリ科海藻の成長を促進することが明らかになった。培養実験後の増殖藻体から緩衝液抽出によりタンパク質画分を回収し、等電点電気泳動(一次元目)とSDS-PAGE(二次元目)を組み合わせた二次元電気泳動によりタンパク質を等電点と分子量により分離し、検出することができた。また湿重量増加量の高い海藻の方が低い海藻比べて、窒素代謝酵素の活性が高いことを明らかにすることができた。以上の成果を得られたことから区分②と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
実施計画に基づき研究を以下のように実施予定である。平成28年度に新規調製したオゴノリ科海藻単藻培養株を本研究実施期間全般にわたって使用可能にするため、本海藻の保存培養(培地交換は約2週間に1回)を継続する。新規調製した当該オゴノリ科海藻単藻培養株の成熟性を16週間の培養実験で判定する。保存培養初期時と保存培養経過時での当該海藻の湿重量増加量、栄養塩吸収能、免疫増強成分量を測定し、保存培養によるこれらの変化の有無を明らかにする。IAAやIAA以外の微生物由来物質等の添加培養により引き起こされた海藻の代謝物質変動はGC-MS及びHPLCを用いて分析する。代謝物質の多成分同時分析は主にGC-MSで行う。試料はトリメチルシリル誘導体化を行い分析試料とする。トータルイオンクロマトグラムとマスクロマトグラムからピークを同定し、検出されたピークはデータベースを用いて単糖類、アミノ酸類、有機酸類等を同定する。還元糖等の各種成分についてはポストカラム蛍光誘導体化HPLC法等で定量分析を行う。IAA等により代謝変動を受けた海藻のどの代謝経路・代謝酵素が活性化されているかは代謝物質解析のみでは推定できない。活性化されている酵素等が明らかになれば、酵素の性質を考慮することにより、より高成長量、高栄養塩吸収能を持つ海藻の調製に最適な微生物由来物質の選定が進展する。そこで、IAAやIAA以外の微生物由来物質の添加の有無が海藻の代謝酵素活性に及ぼす影響を評価する。測定する代謝酵素としてはIAA添加により海藻の栄養塩吸収量が増加したことから窒素代謝酵素を取り上げる。またIAA添加により海藻の湿重量増加量が大きくなったことから炭素代謝酵素の活性測定も予定している。具体的にはIAAやIAA以外の微生物由来物質の添加あるいは無添加培地で増殖した海藻の硝酸還元酵素や亜硝酸還元酵素等の活性測定を行う。
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Causes of Carryover |
試薬に関して想定していた金額よりも見積額の方が低かったため当該金額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降の研究において有効に使用する予定である。
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