2016 Fiscal Year Research-status Report
放牧ヤギを誘引する休息台の開発とそれによる汚染放牧地でのセシウム集中化
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16K00598
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
安江 健 茨城大学, 農学部, 教授 (10270852)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 放牧ヤギ / 休息時空間分布 / 排泄行動 / セシウム回収技術 / 階層型休息舎 / 休息台の高さ / 休息台へのスロープ斜度 / 耕作放棄地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、反芻家畜に餌として摂取された植物中の放射性セシウム(以下Csと略)の大半が排泄物中に排出されるメカニズムを利用し、放牧ヤギの排泄場所を集中化することでCsの特定場所への集積を促進し、放牧地の簡易な除染技術に役立てることを最終目標とする。そのために、放牧地でのヤギの休息場所を固定化し得る最適な「休息台」を設計し、その休息台を放牧地内に設置した場合に休息場所をどこまで固定化でき、その結果、排泄物を介してのセシウムの集中化をどこまで促進できるのかを検証することを目的としている。 研究初年度である本年度は、まずヤギが好んで休息する休息台の高さとそこへのスロープ斜度を、自作の「可動式休息台」を用いて実験的に検証した。その結果、ヤギが好んで利用する休息台の高さとスロープ斜度は去勢雄では160cm・30°が最高であり、それ未満やそれ以上の水準ではどちらも利用率が低下し始めたのに対して、雌では145cm・25°までは高い頻度で利用したが、それ以上の水準では利用率が急速に低下した。つまり好んで利用する休息台の高さとそこへのスロープ斜度は、雌雄間で異なることが明らかとなった。このことは、雌雄混合で放牧されている混成群での休息場所の固定化を図る本研究の場合には、高さが低くてスロープ傾斜の緩い雌用の1階部分と、高さが高くスロープ傾斜の急な去勢雄用の2階部分を併設した「階層型休息舎」が有効である可能性を示唆する。 同時に、雌雄混成群での飼育では通常、体の大きな去勢雄が優位となることから劣位の雌個体の福祉性が低下することが問題視される。本研究の直接の目標ではないものの、上記のような階層型休息舎により休息時の雌雄での空間使い分けが可能となれば、雌個体の福祉性を低下させることなく雌雄混合での放し飼い飼育が可能となるかもしれず、この点においても本年度の結果は有益と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画当初の予定通り、本年度はヤギが好んで休息利用する休息場所の高さとそこへのスロープ斜度を上述の通り明らかにすることができた。その結果、雌雄混成のヤギ群を対象とする場合には、異なる高さとスロープ斜度の1階と2階部分を有する階層型休息舎が有効であることを明らかにでき、次年度以降に実際に放牧地に設置して排泄場所の誘引を試みる休息舎の最適な構造を決定することもできた。 さらに本年度は原発事故以降5年間にわたって継続してきた放牧地のCs汚染状況と放牧ヤギの排泄場所分布のモニタリングも継続した。その結果、飲水と鉱塩が設置されている既存の休息舎の場合でも、休息舎から30m未満でのヤギの滞在時間割合は62~64%であり、糞尿回数の約7割が休息舎周辺に集中していた。植生から地中22cm深までの土壌を含めた環境中の総Cs沈着量の推移では、糞尿によるCsの集積が少ない休息舎遠方(90m以上)部分では半減期を考慮した期待値とほぼ同様の沈着量を示したのに対して、排泄物の堆積によりCsが集積すると予想された休息舎周辺(30m未満)では逆に期待値より24kBq/m2低い結果となった。ほとんど平坦で雨水による移動が想定されない当放牧地では、糞尿により集積されたCsの大部分が休息舎内に堆積(沈着)している可能性が示唆された。 これら放牧地のCs汚染状況の現在の状況、ならびにヤギが好んで休息する階層型休息舎の構造を明らかにできたことから、次年度以降の研究も予定通り実施できるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上述したように、本研究は初年度終了時点においては順調に推移していると考えられることから、今後の研究は当初の計画通りに推進できるものと考える。具体的に次年度は、高さとスロープ斜度が145cm・25°以下の1階と、160cm・30°付近の2階部分を持つ2階建ての休息舎を実際に当研究の試験放牧地に追加で建設し、行動観察および放牧地のCs沈着量のモニタリングを本年までと同様に継続して実施することで、階層型休息舎による誘引効果と、その結果としてCsがどこまで集中化し得るかを把握する。 加えて本年度に得られた「ヤギの休息場所に最適な高さとスロープ傾斜」に関する結果は、Csの簡易回収技術という最終目標に関わらず貴重な新知見であり、すでに関係学会において口頭発表もしている。次年度はこの部分の結果について論文による発表を急ぎたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度も申請時には予想しなかったサンプル粉砕器の故障・修理というトラブルが発生した。本研究では高価な計測機器の使用は想定していないものの、階層型休息舎の利用状況を観察するために赤外線センサーカメラを多用する。これらの機材はすでに用意済であるが、外国製のため故障した際に備えて予備のカメラを必要とする。次年度予算にはこの予備カメラ分は計上していないため、本年度、学会大会2回分の参加費として計上していた旅費を1回分とし、その分を次年度に回すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額分は上記の通り、予備のセンサーカメラの購入として物品費として使用予定である。
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Research Products
(1 results)