2017 Fiscal Year Research-status Report
放牧ヤギを誘引する休息台の開発とそれによる汚染放牧地でのセシウム集中化
Project/Area Number |
16K00598
|
Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
安江 健 茨城大学, 農学部, 教授 (10270852)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 放牧ヤギ / 休息時空間分布 / 排泄行動 / セシウム回収技術 / 階層型休息舎 / 休息台の高さとスロープ斜度 / 耕作放棄地 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、反芻家畜に餌として摂取された植物中の放射性セシウム(以下Csと略)の大半が排泄物中に排出されるメカニズムを利用し、放牧ヤギの排泄場所を集中化することでCsの特定場所への集積を促進し、放牧地の簡易な除染技術に役立てることを最終目標とする。研究初年度では、ヤギが好んで休息する休息台の高さとそこへのスロープ斜度を、自作の「可動式休息台」を用いて実験的に検証した。その結果、社会的順位の優位な去勢雄と劣位な雌では好んで利用する休息台のスロープ斜度が異なり、30~35°のスロープ斜度を持つ2階建て休息舎とすることで、群全体での利用頻度の高い休息舎が提供できるものと推察された。 そこで本年度は、2階へのスロープ斜度が30~35°となる2階建て休息舎を放牧地に新設し、休息舎自体の利用状況と休息舎設置によるヤギの誘引効果、ならびに糞尿を介してのCsの集積状況を検討した。6月~12月までの放牧期間中、センサーカメラによる24時間観察を実施した48日間でヤギが休息舎を利用しなかった日は1日もなく、群による平均利用時間も従来の避難小屋よりも新設した階層型休息舎で有意に長く、ヤギによる階層型休息舎の嗜好性は高かった。一方で休息舎の利用には明瞭な季節変化が見られ、7~9月の2カ月間は夜間(18~6:00)の休息舎利用が全く観察されず、放牧期間中を通しての糞尿の空間分布や放牧地のCs沈着量にはほとんど影響しなかった。ヤギの空間分布の誘引、ひいては糞尿を介したCsの集中化を促進するためには、7~9月における夜間の利用時間低減の原因を明らかにする必要があることが示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画当初の予定通り、本年度はヤギの嗜好性が高い階層型休息舎を実際に設計・建設することができた。また、建設した階層型休息舎の実際の利用状況も明らかにでき、9頭からなるヤギ群において、全頭が同時に利用できるという点で家畜福祉的にも効果的な休息舎であることも示された。上記の通り、夜間利用時間の季節的低減の原因を明らかにすることができれば、今回新設した階層型休息舎によってヤギの空間分布の誘引、ひいては糞尿を介したCsの集中化が図られるものと推察される。 7~9月における休息舎の利用時間の減少は、この期間中にヤギが夜間にササ藪内での休息を繰り返したためであり、これは当地で放牧試験を始めて以来15年間で初めての現象であった。また本年度の供試ヤギ群はたまたま雌主体であり、去勢雄は1歳の若齢去勢雄1頭のみであった。当該期間中の夜間には階層型休息舎の1階部分にタヌキが侵入している様子が数回観察されたことから、雌主体であった本年度のヤギ群では、野生動物に対する恐怖心から従来とは異なってササ藪内で夜間休息し、その結果、階層型休息舎の利用が低下したものと推察された。この推察を証明するために、次年度は3歳以上の成体の雌雄で構成されるヤギ群を同じ放牧地に放牧して試験を継続し、本年度と同じ測定項目について検討する。 外敵に対する恐怖心が雌よりも低い成体去勢雄が存在することで、従来通り夜間のササ藪利用が見られなくなれば、その嗜好性の高さゆえに階層型休息舎の利用時間は放牧期間中を通して高く維持でき、それによって集中化できるCsの量も予定通り把握できるものと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
上述したように、本研究は2年目終了時点において順調に推移していると考えられることから、今後の研究も当初の計画通りに推進できるものと考える。最終年度である次年度は、外敵に対する恐怖心が雌よりも低い成体の去勢雄を含むヤギ群を同じ放牧地に放牧して試験を継続し、ヤギに魅力的な階層型休息舎の設置によるヤギの誘引効果とCsの集中化の程度を把握する。加えて本年度までに得られた結果部分については、論文化による公表を急ぎたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
本研究成果を論文化するために、英文校閲料として計上していた「人件費・謝金」分が、業務多忙につき今年度は実施できなかったことから、ほぼそのまま未使用として残ったためである。次年度にそのまま持ち越し、論文化を図る。
|