2016 Fiscal Year Research-status Report
皮膚内代謝を基盤としたシックハウス症候群発現リスク評価法の確立
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16K00625
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Research Institution | Tokai University |
Principal Investigator |
畑中 朋美 東海大学, 医学部, 客員准教授 (10198749)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木村 穣 東海大学, 医学部, 教授 (10146706)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 有害化学物質 / 環境質定量化・予測 / 薬剤反応性 / シックハウス症候群 / 経皮暴露 / フタル酸エステル / 皮膚内代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はシックハウス症候群(SHS)原因物質の一つであるフタル酸エステルの経皮暴露に対するリスクファクター評価法を確立することにある。平成28年度はSHS患者の単核球中で健常人より活性が高いことが報告されている神経障害標的エステラーゼ(NTE)に焦点を当て、以下の研究成果を得た。 ヒトNTE遺伝子PNPLA6導入マウスは野生型と比較して皮膚内のNTE活性が高く、フタル酸エステルの皮膚透過性も高かったが、皮膚内で代謝されない硝酸イソソルビドの透過性に差は認められなかった。この結果は、NTE遺伝子の導入はマウスの皮膚バリヤー能自体には影響しないが、皮膚内のエステラーゼ活性を高め、その結果フタル酸エステルの皮膚透過性が増大したことを示唆している。フタル酸エステルは高脂溶性のため、角質層へ容易に分配するが、水分に富む角質層以下の皮膚組織へは移行し難い。しかし、皮膚内で加水分解を受けて極性を得、より毒性の高い代謝物として経皮吸収されるという新たな暴露シナリオを描くことができる。 次に、皮膚移植手術を受けるSHS以外の患者の皮膚内と単核球中のNTE活性の関係について検討した。皮膚内のNTE活性は定量限界に近い低値を示したが、ヒトの単核球やPNPLA6導入マウスの皮膚や脳を用いた代謝実験から、NTE活性はパラオキソン抵抗性エステラーゼ活性で近似できることを見出した。その皮膚内の活性と単核球中NTE活性との関係を検討したところ高い相関関係が得られ、SHS患者は皮膚内のNTE活性が高く、そのためフタル酸エステルの経皮吸収性も高いものと推察された。 本被験者のPNPLA6遺伝子内のSNP出現頻度は健常人に近く、NTE活性と遺伝子多型の関係は明らかにできなかった。また、皮膚内の総エステラーゼ活性に占めるNTE活性の割合も10 %程度であった。次年度は他のエステラーゼの寄与を検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の研究実施計画では、ヒト皮膚内NTE活性の予測法の確立を目標として掲げ、「ヒトNTE遺伝子導入マウスの皮膚透過性の評価」と「ヒト皮膚内NTE活性と単核球中NTE活性の関係の評価」の2つの研究課題に取り組むこととした。 第一の課題では、ヒトNTE遺伝子PNPLA6導入マウスの皮膚バリヤー能を、皮膚内で加水分解を受けない硝酸イソソルビドの皮膚透過性から評価した。PNPLA6導入マウスの皮膚透過性は野生型マウスと同等であり、皮膚バリヤー能自体には遺伝子導入の影響はないことが確認できた。透過物質をさらに追加することも考えたが、硝酸イソソルビドと本研究で標的としているフタル酸エステルの物理化学的特性の類似性から本透過物質で十分であると判断した。 第二の課題では、皮膚移植手術を受ける患者の皮膚内と単核球中のNTE活性の比較を試みた。本被験者はSHS患者ではなく、皮膚内のNTE活性が定量限界に近いほど低いという問題に突き当たった。しかし、被験者の単核球やPNPLA6導入マウスの皮膚や脳を用いた代謝実験により、NTE活性の代替としてパラオキソン抵抗性エステラーゼ活性が使用できることを見出し、皮膚内と単核球中のNTE活性は相関することを明らかにした。PNPLA6のSNP解析も行ったが、本被験者では健常人とほぼ同じ発現パターンが得られ、酵素活性との関係の解析までには至らなかった。 以上のように、研究実施計画に示した全ての研究課題に取り組むことができ、想定外の結果が得られた場合も代替案で十分に対処できた。本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究課題の進捗状況がおおむね順調であったことから、平成29年度以降の研究は当初の計画どおり推進するものとする。すなわち、フタル酸エステルのヒト皮膚内代謝に寄与するエステラーゼの探索を目的に、種々エステラーゼの皮膚内での局在や分布量、エステル化合物の代謝能を評価し、その結果に基づいてフタル酸エステルの皮膚内代謝並びに経皮吸収性の予測法の確立を目指す。なお、今後もヒト皮膚切片を用いた研究課題については、東海大学医学部倫理委員会の承認を得、患者の同意が得られたときにのみ実行可能とする。 平成29年度は「ヒト皮膚内のエステラーゼの局在と分布量の評価」と「種々エステラーゼによるフタル酸エステルの加水分解挙動の速度論的解析」の2つの課題に取り組む。DNAマイクロアレイを用いてヒト皮膚内で高発現しているエステラーゼ遺伝子を探索する。その酵素の皮膚内の局在は抗体染色により、皮膚内の分布量は皮膚ホモジネートを用いてウエスタンブロティング法により評価する。皮膚内に高い分布が認められたエステラーゼについては、フタル酸エステルの加水分解挙動を速度論的に解析する。種々濃度のフタル酸エステル溶液に酵素を添加し、その加水分解速度をMichaelis-Menten式に基づいて解析して、代謝パラメータを算出する。フタル酸エステルの定量には液体クロマトグラフィーを用い、市販の酵素を用いて実験を行う予定である。ヒト皮膚ホモジネートでも同様の実験を行い、その加水分解挙動を種々エステラーゼと比較する。 平成30年度は平成29年度の研究結果に基づき、フタル酸エステルの皮膚内代謝並びに経皮吸収性の予測法の確立を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、主に購入予定であった設備備品、器具類の賃貸が可能となったことや、試薬類の譲渡を受けたこと、施設利用費が予定より低額であったことによる。一部成果発表や学会参加費に流用したが、残額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は試薬類、器具類等の消耗品や成果発表のため国内旅費、学会参加費に組み込む予定でいる。
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Research Products
(5 results)