2017 Fiscal Year Research-status Report
マングローブ生態系の機能を支える食物網構造;北限分布地と亜熱帯域の比較
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16K00635
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Research Institution | Kagoshima University |
Principal Investigator |
山本 智子 鹿児島大学, 農水産獣医学域水産学系, 教授 (80305169)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山中 寿朗 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (60343331)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マングローブ / 生態系機能 / 食物網 / 底生生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
鹿児島市喜入町に広がる北限のマングローブ林と奄美大島のマングローブ林において、底生生物の群集組成及び食物網構造を比較するため、生物と環境の調査及び生物サンプルの採集を行った。 28年の夏と秋に奄美大島で予定していた調査を天候の都合により中止したことから、29年8月と11月に調査を行った。その結果、喜入のマングローブにおいては、マングローブ林内のみに生息する種は見られなかったが、奄美大島では、マングローブに特異的な腹足類、甲殻類が見られた。奄美市住用町のマングローブ林が「奄美群島国立公園」の特別保護地域に指定され、今年6月には奄美・琉球列島が世界自然遺産に登録される見込みであるため、この結果は広く奄美大島の生物多様性を評価する上で重要な知見となる。 また、マングローブ植物による有機物生産量の季節変化を捉えるため、リタートラップによる落葉の回収、クロロフィルa及び有機物量を測定するための底質と水中懸濁物の採集についても、28年度に行うことが出来なかった8月と11月に行った。 喜入で採集した底生生物サンプル、及び落葉、樹木上の藻類、落葉上や底質上の微細藻類など、マングローブ食物網において生産者となり得る植物について、炭素と窒素、及び硫黄の安定同位体解析を行ったところ、多くの底生生物が、マングローブ植物の落葉ではなく、海域起源の有機物を利用していることが示唆された。また、28年冬の寒波で喜入のマングローブ林が一斉に落葉し、林内の環境は大幅に変化したが、それによる食物網構造の変化は見られなかった。 以上の結果を、11月に熊本で行われたThe 3rd Asian Marine Biology Symposium、12月にフィリピンセブ島で行われたSociety for Coastal Ecosystem Studies -Asia Pacific、3月の日本生態学会全国大会において発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
28年に奄美大島のマングローブ林で季節毎に予定していた底生動物の採集・調査、落葉や底質の採集、環境要因の測定について、夏と秋の調査が天候悪化のため中止を余儀なくされた。そのため、この季節の野外調査を29年度に行っており、底生生物の食物網構造の解析が遅れている。ただし、喜入のマングローブ林については、安定同位体解析及び胃内容解析から、食物連鎖網の概略を明らかに出来ており、奄美大島のマングローブ林についても急ぎ解析の予定である。 28年冬の寒波により、喜入のマングローブ林が一斉に落葉してしまい、マングローブ植物の生産性や林床内の環境に大きな変化があったため、これによって食物連鎖網に変化が生じたかについて今回の結果を基に考察したところ、落葉前後で林内の光量や温度など底生動物の生息環境、落葉量や底質上のクロロフィル量及び有機物含有量は大きく変化したが、食物連鎖網への影響は見られなかった。そのため、本研究の目的を達成する上での影響は少なく、スケジュールの大幅な遅れにはつながらない。ただし、マングローブ林の樹幹は回復しつつあり、それによる底生生物の生息環境の変化については今後も野外調査を継続していく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
鹿児島市喜入町に広がるマングローブ林と奄美大島のマングローブ林において、底生動物の群集構造の季節変化を比較するため、29年度に奄美大島で行った底生生物相の調査結果を喜入での結果と比較する。また、採集したサンプルの胃内容解析と安定同位体解析を行い、両地域のマングローブ林における食物連鎖網についても比較を試みる。これによって、マングローブ植物本来の分布地と人工的分布地におけるマングローブ生態系内の底生生物と植物の関係について明らかにすることができる。 また、マングローブ食物網の中で重要な役割を果たしていると思われる粉砕者を推定し、特定のための現場実験を試みる。喜入のマングローブ林では落葉を利用する生物がほとんど見られず、食物連鎖は海洋起源の生産者に支えられていたが、亜熱帯域に近い奄美大島では異なるプロセスが見られると考えられる。 以上の結果から、双方のマングローブ林における食物連鎖網を明らかにし、半定量的な物質の移動、循環モデルを30年度中に作成する予定である。また、奄美大島に住用マングローブにおける底生生物相とマングローブ植物が形成する環境について、林内の空間変異についても検討する。
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Research Products
(10 results)