2017 Fiscal Year Research-status Report
独自の粉砕技術で製造した粉体状セルロースを用いた水分子移送デバイスの開発
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16K00645
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
香田 智則 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 准教授 (60261715)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西岡 昭博 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 教授 (50343075)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | セルロース / 結晶性 / 水 / 水耕栽培 / 吸水性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、独自の粉砕技術で製造したセルロースの粉体を利用し、水分子を移送するデバイス(水分子移送デバイス)を開発することを目的とする。以下に平成29年度の研究実績を記す。 「水分子移送デバイスの基礎研究」においては、当初計画していた滴水性の研究ではなく、平成28年度とは異なる条件でセルロース粉体の結晶化度と粉体の吸水重量との関係を調べた。結晶性のセルロース粉体を温度制御した臼で粉砕し、結晶化度を下げたものを非晶性セルロースとした。未粉砕のものを結晶性セルロースとし、また、非晶性セルロースを高温高湿の条件で再結晶化させたものを再結晶性セルロースとした。これらのセルロース粉体を内径20mmの塩ビパイプに充填し、タッピング回数を調整することで試料の充填高さを変更した。平成28年度はタッピング回数を一定としたのに対し、平成29年度は試料の充填高さをタッピング回数を変えることで調整した。非晶性セルロースの結果と再結晶性セルロースの結果を比較すると、非晶性セルロースの方が再結晶性セルロースよりも吸水重量が大きく吸水速度が速いことが分かった。 「水分子移送デバイスの応用展開」では、水分子移送デバイスの水耕栽培への応用展開を目指した。当初は平成28年度に実施を計画していたチンゲンサイの栽培可能性を検討した。発芽、子葉の成長が確認できた。本葉が5枚まで確認できたところで成長が止まり枯れてしまった。 「水分子移送機構の解明に向けた理論展開」としては、セルロース結晶と水の界面における分子動力学シミュレーションを開始した。多糖類の力場としてGLYCAMを採用し、水分子の力場としてはTIP3Pを用いることで、全原子モデルによるシミュレーションを開始した。セルロース結晶の界面において、水分子がセルロース結晶の第1層と第2層の間に入り込む様子を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の成果をまとめると以下のようになる。水分子移送デバイスの吸水重量と吸水速度においては、独自の技術により製造した非晶性セルロースの優位性を確認することができた。水分子移送デバイスは塩ビ管などの成形品にセルロースの粉体を充填することで製造できる。その際に、セルロースの粉体の空隙率を制御することが、安定した実験結果を得る上で重要であることが分かってきた。セルロース粉体の空隙率とは、セルロース粉体間の空隙が占める割合を示すものである。水耕栽培への応用においては、チンゲンサイの収穫までは至らなかったものの、本葉の成長を確認することができた。さらには、セルロース結晶と水界面の分子シミュレーションをスタートすることができた。これらの結果を踏まえ、概ね順調に進展していると自己点検評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」のところでも述べたが、平成29年度までの研究から、再現性のある結果を得るためには、水分子移送デバイスを構成するセルロース粉体中の空隙率を制御することが重要である。セルロース粉体が水を吸い上げる吸水性の評価から、セルロース粉体から水を取り出す滴水性の評価へと研究計画を進めていく上でもこの点に注意していく必要がある。滴水性の評価は吸水性の評価の際に用いる単純な直線状のデバイスではなく、吸水した水分を再び下方へ導く複雑な形状のデバイスを使用することになる。今後は吸水性の評価から滴水性の評価までもを視野に入れ研究を展開していく。
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Causes of Carryover |
平成29年度までに水分子移送デバイスの吸水性と独自技術による非晶性セルロースの優位性に関する知見を得ることができ、水耕栽培への応用における問題点が明らかになった。水とセルロース界面の分子シミュレーションを開始することができた。研究の進捗状況がこれらの基礎的なステージから応用に移る段階では、応用展開においてより多くの経費が使用できることが重要である。その点を考慮し経費節約に努めた結果、次年度使用額が生じた。この経費を次年度に回すことで、必要となる物品の購入など、より有効な研究経費の支出が可能となる。
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