2018 Fiscal Year Research-status Report
会津盆地における地中熱利用のための地下変温層の温度変化に関する研究
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16K00646
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
柴崎 直明 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (70400588)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 地下水温 / 地中温度 / 地下変温層 / 地下水位 / 地下水流動 |
Outline of Annual Research Achievements |
2016年度に掘削した地下水観測孔(井戸口径:50 mm,VP管)5地点(GW-1,GW-2,GW-3,GW-4,PF-5)および地中温度計埋設孔3地点(GT-1,GT-2,GT-3)において,引き続き地下水温,地中温度をそれぞれ30分間隔で測定している.また,地下水観測孔5地点では,地下水位の連続観測も30分間隔で行っている.さらに,2017年11月19日からは表層付近の地中温度(地表面からの深度およそ5 cm程度)を地中温度計埋設孔3地点において30分間隔で測定を開始した.対象地域の透水係数を把握するために,2018年6月にはスラグ試験と簡易的な揚水試験により,地下水観測孔5地点の透水係数を推計した.これらの測定結果のとりまとめや解析を行い,1件のポスター発表(地学団体研究会;第72回地学団体研究会総会)を行った.また,現在,上記の成果をとりまとめ論文投稿に向けて原稿を執筆中である.この論文では現地観測データをとりまとめ,喜多方市北部において水田地帯での地下変温層中の温度変化の特徴を明らかにしたものである.地下水温と地中温度の年平均値は約14℃であり,アメダス気象データによる気温の年平均値よりも高い.これは灌漑期の水田からの地下への浸透量が他の時期よりも大きいためと推測される.3地点で測定した地中温度の変動幅やパターンが異なり,地下地質を構成する砂礫層の不均質性や水田の耕土層の厚さが影響している可能性がある.不飽和帯中の特定の深度で,融雪・灌漑のイベントによる地下水位の上昇の際に地中温度が上昇・低下した.これは,水位上昇により不飽和帯から飽和帯に変化した深度とその直下の飽和帯との間で熱交換が行われたためと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度はおおむね計画通りに進んでいる.2016年度から実施している地下水位・地下水温・地中温度の連続観測を継続している.測定した地中温度と1次元熱伝導方程式の解析解から得られる地中温度とを比較したところ,前者の方が変動幅は大きいことが確認された.これにより現地での地中温度は,地下水の流動の影響を受けていることが確認された.昨年度実施したFEFLOWを用いた実験的な地下水流動・熱輸送数値シミュレーションにより,地下水流動に関するパラメータを決定する必要があると判断した.今年度は地下水観測孔5地点においてスラグ試験と簡易的な揚水試験を行った.その結果,得られた透水係数は1オーダーのばらつきが見られた.観測している不圧帯水層の透水係数には不均質性があると判断された.数値シミュレーションによる実験的な解析では,地下水流速が大きいほど温度変動幅が大きくなる傾向が見られた.一方で,実測による地中温度の変動幅に着目すると,GT-1よりも透水係数が大きいGT-2では温度変動幅が小さく,数値解析と逆の関係が得られた.この理由として,ダルシー流速よりも平均間隙流速や透水係数の縦横比なども影響していると考えられる.また,地下水の流動方向も地下温度分布を決定する要因になると考えられ,これらの検討も必要である.
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Strategy for Future Research Activity |
前年度までと同様に,地下水位・地下水温・地中温度の連続観測を継続し,地下水温と地下水位の時系列的な変化を明らかにする.2018年夏季は会津地方において異常渇水だったため,普段夏季に使用されていない消雪用井戸が緊急に稼働し,地下水位が低下した.この影響がどのように地下の温度構造に影響を与えたか比較検討を行うために2019年夏季の温度分布を測定し比較検討する.これまで実施した調査結果にもとづいて,地中温度形成のプロセスを検討し,それを踏まえた数値シミュレーションを実施する.地下水涵養量を推定するためにタンクモデルを作成し,土地利用ごとに値を推計する.これらのデータをモデルに入力し,熱に関するパラメータの推定を行う.3次元地下水流動シミュレーション解析を引き続き行い,実測値(地下水位および地中温度)と計算値が近づくように,モデルの検証計算を行う.その後,検証されたモデルに,将来の冬水田んぼの運用条件や周辺部の地下水利用条件等を入力して,冬水田んぼの効果と影響の将来予測計算を行う.具体的には,夏(冬)に涵養された温かい(冷たい)地下水が,冬季(夏季)にはどの地点・深度に移動するかを把握する.非定常的に変化する水文地質条件のもと,地中熱ポテンシャル評価を行う.数値解析から水田で涵養された地下水を有効的に活用できる地域や範囲を明らかにして,効率的な浅層部地中熱利用方法の検討を行う.とくに,冬水田んぼの効果や影響を踏まえたうえで,効率的で地下水の水位や水温への影響が少ない地中熱利用方法を提案する予定である.
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Causes of Carryover |
2016年10月より地下変温層の温度変化を連続的に観測し研究を進めているが,2018年夏季は会津地方において異常渇水だったため,普段夏季に使用されていない消雪用井戸が緊急に稼働し,地下水位が低下した.この影響がどのように地下の温度構造に影響を与えたか比較検討を行うために,2018年度の旅費および諸謝金を抑え,2019年度まで補助事業期間を延長して観測を継続し,その結果を踏まえて研究成果を取りまとめることにしたい.
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