2017 Fiscal Year Research-status Report
出芽酵母Haa1による酢酸ストレス応答機構の解明と酢酸耐性酵母育種技術への応用
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16K00655
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Research Institution | Okayama Prefectural University |
Principal Investigator |
田中 晃一 岡山県立大学, 保健福祉学部, 教授 (90282615)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 酵母 / バイオエタノール / 酢酸 / ストレス / グリセロール |
Outline of Annual Research Achievements |
セルロース系バイオマスを原料とするバイオエタノールの生産では、糖化液に酢酸を主とする発酵阻害物質が混在することが大きな問題となっている。私は酵母に酢酸耐性能を持たせることでこの問題を解決しようと考え、酵母の転写因子をコードするHAA1遺伝子をもちいて酵母の酢酸耐性を飛躍的に向上させる技術の開発に成功した。本研究課題では、転写因子であるHAA1の標的遺伝子のうち、酢酸耐性に主導的な役割を担うものを見つけだし、増殖に対して悪影響を及ぼす因子を排除することで、より安定した酢酸耐性酵母の育種技術を開発することを目標としている。 HAA1遺伝子の過剰発現が引き起こす酢酸耐性化には、細胞内グリセロールの蓄積が必要不可欠であることを明らかにした。また、活性化されたHAA1転写因子により発現が強く誘導される標的遺伝子の一つとして、グリセロール3-リン酸フォスファターゼをコードするGPP2遺伝子を同定した。グリセロール3-リン酸フォスファターゼはグリセロール生合成経路の鍵となる重要な酵素の一つであるため、HAA1による酢酸耐性化には、このGPP2遺伝子の発現誘導が主導的な役割を担っている可能性が示唆された。しかしながら、GPP2遺伝子を過剰発現しても、HAA1遺伝子の場合と同様な酢酸耐性化や細胞内グリセロールの蓄積は起こらなかった。また、野生型株と比べるとやや減少するものの、GPP2遺伝子を破壊した株においても酢酸ストレスに応答した細胞内グリセロールの蓄積が見いだされた。従って、HAA1の活性化により誘導される細胞内グリセロールの蓄積制御系において、GPP2遺伝子の転写活性化は一定の役割を担っているものの、それ以外にも未知の制御系が関与していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の最初の難関は、HAA1遺伝子の過剰発現により生じる酢酸耐性化において、主導的な役割を担う具体的な因子を同定することであり、最悪の場合、酢酸耐性を担保する因子が見つからない可能性も想定していた。しかし幸いなことに、初年度の成果として、酢酸ストレスにより活性化されたHAA1が細胞内にグリセロールを蓄積させることと、蓄積したグリセロールが酢酸耐性に深く関与していることを明らかにすることができた。更に、HAA1は転写因子であることから、細胞内グリセロールの蓄積は何らかの遺伝子の転写活性化を介して制御されることが予想されたが、その候補遺伝子としてグリセロール生合成経路で働くGPP2遺伝子を見いだすことができた。残念ながらGPP2遺伝子は細胞内グリセロールの蓄積に関してHAA1の唯一無二の標的遺伝子ではなかったが、今後はGPP2遺伝子を軸として、さらなる標的遺伝子の解明を進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの結果より、HAA1の活性化を介した細胞内グリセロールの蓄積に対し、GPP2遺伝子の転写活性化は必要であるが、十分ではないことが示された。また、GPP2遺伝子の過剰発現だけでは十分な酢酸耐性化は誘導できなかった。従って、今後は細胞内グリセロールの蓄積において、GPP2と協調して働く因子や制御系を早急に解明する必要がある。酵母にはGPP2と同じ酵素をコードするGPP1遺伝子が存在するため、はじめにGPP1遺伝子の役割について調べる予定である。また、これまではグリセロール生合成系の活性化制御について重点的に調べてきたが、グリセロール分解系の抑制や、細胞外への分泌の抑制といった観点からも解析を進めてもよいかもしれない。もし細胞内グリセロールの蓄積に関してGPP2と並行して働く新たな遺伝子を見いだすことができれば、それらの遺伝子を利用した新たな酢酸耐性化酵母の育種技術を確立することを最優先事項として研究を進める。また、グリセロールがどのようにして酢酸ストレスから細胞を守っているのか、そのメカニズムの解析も進める予定である。
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Causes of Carryover |
平成29年度は平成28年度に購入した物品・試薬のストックなどがまだ残っていたため、使用予定であった予算を平成30年度に回すこととした。平成30年度は、消耗品などの物品費、学会参加のための旅費、論文の校正費などに使用する計画である。
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Research Products
(1 results)