2017 Fiscal Year Research-status Report
システム・トランジション研究における分析概念・枠組みに関する理論的かつ実践的考察
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16K00671
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
青木 一益 富山大学, 経済学部, 教授 (60397164)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | トランジション理論 / 電力システム / 小規模分散型システム / 権力(関係)概念モデル / MLP / システム・イノベーション / 自立・分散型システム / 再生可能エネルギー |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度に予定した「次世代エネルギー・社会システム実証プロジェクト」に関するケーススタディにより、導入を企図した分散型システムの“スケール”をめぐる官(自治体)と民(参加企業)の利害・選好の不一致が、ニッチ・イノベーションを含むシステムの社会実装を阻害する要因になることを明らかにした。 この点は、システムに見出されるべき事業性と公益性との相克という論点とも密接にかかわり、より大きなスケールで需要家のアグリゲーションをはかりたい企業側と、行政区画の範囲内でシステムを局所的・限定的に捉える自治体側との合意形成の不可能性が、ニッチ・イノベーションを揺籃するためのリソースの集積と動員を阻み、「実証プロジェクト」の維持・継続を与件としたシステムのフィージビリティに一定の負の影響を与えている。より大きなスケールでのシステム創出を選好する企業側のニッチ・レベルでの「実証プロジェクト」への参画意思・態度は、そこでのイノベーションが小規模分散型への変革を志向するものだとの基本認識と矛盾・衝突をきたす潜在性を持ち、かつ、このことが一因となり、自治体が実施主体となった「実証プロジェクト」の成果からは、区画内でエネルギーのスマート化をはかるだけでは事業性の確保は困難との総括が導かれる傾向にある。 なお、トランジション理論・MLPに依拠した「権力(関係)概念」モデルの観点からは、このことが、大規模集中型システムにおける既存レジーム・アクターの構成的(constitutive)権力に基づく支配的(dominant)な作用を事実上reinforceするものであり、また、その限りにおいて、自治体を含むニッチ・アクターの変革的(transformative)権力が、小規模分散型システムの創出・定着に不可欠となる構成的権力へと変容・展開することを阻害する、との理解を導く点に重要な含意が見出される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2017年度は、本研究において着手が予定されていた3件のケーススタディのうち、けいはんな学研都市と横浜市で取り組まれた「次世代エネルギー・社会システム実証プロジェクト」に関する2件のケースステディを実施した。 これら「実証プロジェクト」の成果を受け、政府は現在、地理的限定を想定しないいわゆるVPP(virtual power plant)構想の実現に向けた政策を展開しているが、今年度は、ここでの政策展開に比して、より一層小規模分散型への変革を促進するのに適した技術イノベーションをめぐる胎動・進捗を看取することとなった。それは、同時同量制約からの解放を企図した非同期連係技術およびブロックチェーン・スマートコントラクト技術を用いた、電力の需要家間(P2P)取引を可能とする(自立・分散型の)小規模システム創出に向けた技術動向の顕在化である。 これを受け、本研究では、2018年度に予定されていた残る1件のケーススタディに代えて、ここでの新たな技術動向を分析対象とした調査研究に本年度より着手することとした。このような修正は、大規模集中型から小規模分散型へのシステム・トランジションの可否を問うとの本研究の中核的な問題関心に鑑みて、より適切な研究アジェンダを設定するものであり、また、下記【今後の研究の推進方策】に見るような分析上の成果をももたらしていることから、本研究の現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
【現在までの進捗状況】で見た研究アジェンダの修正がもたらした調査成果により、本研究で掲げた課題の一つである「トランジション理論・MLPおよび「権力(関係)概念」モデルの深化」をはかる際の方向性が、以下の2点においてより明確化した。そのため、今後は、これらに関する実証的検討に取り組む。 ①非同期連係およびブロックチェーン・スマートコントラクトを用いた技術イノベーションをめぐる胎動が、今後、ニッチ・レベルを起点とした如何なるアクター間相互作用を経る中で、如何なるリソースの集積・動員を得ることにより、そこでの権力的関係性が革新的(innovative)→変革的→構成的権力への変容を伴うものとなるのか(あるいは、ならないのか)。 ②ここでの変容の可否を左右する動的な過程において、アクター間に如何なる権力的関係性が生起する場合に、既存レジーム・アクターの支配的な作用が代替されるのか(あるいは、されないのか)。 つぎに、これと平行して取り組むべきは、実証的検討を行う際の視座・枠組みの発展的構築をはかることである。この点は、先行研究の検討から得られた知見を踏まえつつ、アクターの単位の違い(個人、集団、機構)、セクターの性質の違い(政府、市場、市民社会)、アクター間相互作用の違い(フォーマル、インフォーマル)といった、従来にない観点を包摂した視座・枠組みの構築につとめる。 このような検討は、権力的関係性の変容のあり方を規定するリソースの多寡・蓄積を、単にquantitativeにアグリゲートされたものとして、いわばverticalな位相から捉えようとする従来の視座に、qualitativeな差異への着目が可能とするhorizontalな位相を接合することを意味する。これにより、非線形な動的過程としてのtransition pathwaysをより的確に捕捉・理解するための視座の獲得を目指す。
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