2016 Fiscal Year Research-status Report
スウェーデンにおける原発閉鎖決定がエネルギー関連技術開発に与えた影響に関する研究
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16K00679
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Research Institution | Chiba University of Commerce |
Principal Investigator |
伊藤 康 千葉商科大学, 人間社会学部, 教授 (10262388)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | スウェーデン / 脱原発 / 省エネルギー / 再生可能エネルギー / 電気料金 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主たる目的は、1980年にスウェーデンで行われた「原発廃棄に関する国民投票」がその後のエネルギー関連技術開発等に与えた影響に関する分析である。その前提として、国民民投票後の10年間のスウェーデンにおけるエネルギー政策について、政府の調査委員会等の報告書や議会に提出した政策案を中心に検討を行った。その成果の一部が「国民投票後のスウェーデンのエネルギー政策-脱原発のための施策は十分だったのか」(西澤・喜多川編著(2017)『環境政策史-なぜいま歴史から問うのか』ミネルヴァ書房,所収)である。 同時期の省エネルギーについては、第2次石油ショックへの対応が省エネルギー全般ではなく、石油代替にとどまっていた、その結果、電力需要を抑制しなければならなかったにもかかわらず、石油を利用した家庭用暖房を電力暖房への転換を促し、却って原発への依存を高めることにつながってしまった。また、1980年代後半の地球温暖化問題への関心の高まりは、最も現実的な代替電源である天然ガス火力への転換を事実上不可能にした。 再生可能エネルギー普及については、日本などと比較して、研究開発投資のGDPに対する比率は大きかったが、市場の拡大・普及につながるような政策手段は十分ではなかった。 結局、1980年代には2010年までの原発廃止を実現を可能にするような政策を導入することはできなかったといわざるを得ない。これはすなわち、省エネルギーや再生可能エネルギーの開発・普及を大幅に促進する政策が十分ではなかったということを意味している。 なお、原発廃棄という決定が廃炉技術開発等へのインセンティヴを削ぐという問題意識を一部の関係者がもっていたことは確認できたが、それがどの程度真剣に議論されたかまでは明らかにできなかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
これまでに収集したスウェーデン語文献を十分に読み込むことができず、エネルギー政策全般の把握にとどまり、個別の分野を詳細に把握することができなかった。また、予定していたスウェーデンでの現地調査を行うことができず、電子化されていない資料収集とヒアリングが実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度に実施できなかったスウェーデンでの現地調査を平成29年度の夏季休暇中に実施し、電子化されていない資料の収集とヒアリング(産業省、エネルギー庁、大学研究者等)を実施する予定である。 平成28年度の研究により、1980年代のエネルギー政策全般に関しては、それなりに把握することはできたが、科学技術政策との関連、すなわち2010年までの原発廃止を実現するために、再生可能エネルギー等の開発や、あるいは廃炉関連技術開発への影響は、まだ十分に把握できていないため、平成29年度はそれを中心に検討を行いたい。特に、原発廃棄の決定が廃炉技術や安全性確保ための技術開発が停滞するという可能性がどの程度意識され(あるいはされず)、それにどのように対応しようとしたのかが重要な論点である。 また公文書等の読み込むによる定性的な分析だけでなく、平成29年度はヨーロッパ特許庁の特許データを利用した定量的な分析により、国民投票によって、エネルギー関連技術開発の動向に変化があったのか否かを明らかにする。
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Causes of Carryover |
予定していたスウェーデンでの現地調査を行うことができず、旅費と現地でしか入手不可能な電子化されていないスウェーデン語資料の翻訳費用がかからなかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
夏季休暇中にスウェーデンでの現地調査を実施し、あわせて入手した資料(スウェーデン語文献)の翻訳を依頼する予定である。なお、関係者に対するヒアリング等のアポイントメントをとることが難航する場合は、そのアレンジを業者に依頼することもあり得る。
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