2017 Fiscal Year Research-status Report
沿岸域総合管理のための総合的評価手法と順応的管理システムの開発
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16K00692
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
日高 健 近畿大学, 産業理工学部, 教授 (30309265)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
太田 貴大 長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (30706619)
上原 拓郎 立命館大学, 政策科学部, 准教授 (60384757)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 里海 / 沿岸域管理 / 包括的富指標 / サステナビリティ評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
多段階管理仮説に基づく沿岸域総合管理のあり方に関しては、長崎県が策定している「大村湾環境保全・活性化行動計画」の運用に関する各部局、大村湾沿岸の自治体、関係団体の取組について調査を行った。特に、長崎県庁内の関係部局の調整、沿岸自治体の中心である大村市の関係部局の取組と部局間の調整については分析を行った。関係団体では、大村市関係の漁協による漁場環境の保全に関する取組みについて情報収集を行った。多段階管理仮説の中では、行政による管理に比べて、民間による管理が漁協以外になく、バランスを欠いた構造となっていることが示唆された。 総合的な評価指標の開発に関しては、「大村湾環境保全・活性化行動計画」を対象に、各事業の評価項目・事業目標を、包括的富指標と生態系サービスの統合評価方法の考え方に基づき、組み替える試みを実施し、これまで個別に事業目標が設定されており計画達成の総合的な評価が困難であった状況から前進した。 また、関係団体(漁協、自治区行政区、有志団体等)を対象に持続性評価を行うために適した項目を検討した結果、順応的な里海管理、持続的な管理活動のためには、用いる道具に関する工夫、活動に対する満足度、リーダーシップが適切な指標になりうることを明らかにした。これに加え、情報交換や問題が生じた際の相談や協働といった、団体内あるいは団体間の関係性としての社会的ネットワークが重要であることが示唆された。 さらに、本年度は「大村湾環境保全・活性化行動計画」に掲げられている里海の実現に係る指標の精査とカギとなる各種資本の社会的現在価値の算定を行った。指標の精査は、コーザルループダイアグラムを用いて、各指標の関連性及びそれらの大村湾沿岸域の社会生態系との関連性を明らかにした。資本の評価は例えば漁業についてはRagnar Arnasonの評価手法を用いてその社会的現在価値の算定を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日髙の担当する大村湾の自主的な管理実態が、当初の予想に反して活発でなく、モデルを証明するに足る資料となっていないものの、総合的な評価指標の開発に関しては順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
沿岸域管理組織については、自治体としての大村市の活動ならびに大村市を中心とする自治体のネットワークについてさらなる情報収集を行うとともに、大村市以外の漁協の活動を分析することで、県の取組と合わせた大村湾の管理組織の全体像を完成させる。 大村湾の環境管理活動団体の活動については、持続性評価の指標をもとに、団体間の詳細な比較を行い、さらに、大村湾内全体での総合的な環境管理活動の持続性評価を行う。特に、個々の地先レベル・市町村レベルの里海を管理する団体が相互に補い合いながら、湾全体の適応的な環境管理を持続的に実施できているか否かを評価するための指標を検討する。 社会的ネットワークについては、順応的な管理の実行可能性が高まるネットワークのあり方を既存研究から明らかにすることを継続し、その一般的な知見が具体的な対象里海や内湾で応用可能か、さらに、望ましいあり方に向かうために必要な介入策を議論する。 また、コーザルループダイアグラムを用いて表した各指標と社会生態系の関連性の妥当性を関係者(行政等)へのインタビューなどにより確認、適宜修正する予定である。カギとなる各種本の社会的現在価値についても関係者へのインタビューなどによりその妥当性を確認、適宜修正する。以上を踏まえ、最終年度である次年度は、供給側の観点、つまり行動計画が、計画目標である里海の実現にどのように貢献し、またどのような課題があるのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
29年度に、民間レベルの沿岸域利用の実態が十分に把握できなかったこと、自治体調査によって自治体自身ではなく関連自治体によるネットワークのあることが発見されたが、調査をするには至らなかったことから、次年度使用額が生じた。29年度調査によって、未調査部分の概略が明らかになったため、30年度初めにそれらを調査し、30年度の本来の調査計画に重ねていく。また、受け入れが可能であれば、同じような複数の自治体が沿岸域管理にあたっているアメリカ合衆国・チェサピーク湾の実態調査を行う。
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