2017 Fiscal Year Research-status Report
京都の伝統工芸の制作プロセスに関するアーカイブズ作成
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16K00704
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Research Institution | Kyoto Institute of Technology |
Principal Investigator |
中野 仁人 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 教授 (10243122)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | デザイン / 伝統工芸 / 写真、映像 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は伝統工芸工房・職人、行政、大学の産官学が連携し、伝統工芸の技術、造形および文化的価値を再検証し、それをわかりやすく視覚化したかたちで、社会に発信していくものである。そのために、工房での取材、調査、インタビュー、撮影を綿密におこない、それらを編集していく。 まず工芸技術ごとのプロセス、歴史的変遷、工芸品の特徴について聞き取りおよび文献調査を進め、その後、職人の方たちと打ち合わせをかさねたのちに、写真撮影、映像収録を進め、記録、分析、保存、発信をおこなうものである。 一方で、工芸品の受け手すなわち使用者、あるいは造詣の深い方への取材を続け、日本文化における伝統工芸品の価値の再検証も進めている。作り手の考え方、生き方とそれを使う人の受け止め方、感性を探ることにより、伝統工芸品のモノとしての存在の裏にストーリーあるいはドラマ性を見出し、本来の日本人が生活の中で築き上げたきた工芸品という文化を浮き彫りにすることができると考える。 また本研究では、匠の技を持つ名工として認定された職人だけではなく、その技の継承者としての若手が未来に向けて発信する挑戦的な活動に関しても取材を進める。先細る一方と言われる伝統工芸の世界、そして一方で海外の人からの工芸品への注目。本研究は、その間でこれからの職人が何を目指していくのか、その動向を注視し、あるいはともに検討する研究をも目指すものである。 さらに本研究の特徴として、いくつかの伝統工芸工房と協力しながら新しい目的、新しいデザインによるこれからの工芸品の提案を進めている。いくつかの工房で職人の方々と相談しながら、コンピュータ、レーザーカッター、3Dプリンターなどの使用も視野に入れながら、工芸品の開発を進める。それらは随時、展覧会や冊子のかたちで発表をおこなう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度に引き続き、京都の伝統工芸工房において綿密な調査、職人への聞き取り、工芸技法の取材、撮影をおこなった。 取材先は以下である。組紐 結城和子氏/房撚紐 鍵谷恭三氏/鎚起 浅野美芳氏/和鏡 山本富士夫氏/七宝 野村ひろみ氏/人形着付 大橋弌峰氏/人形顔師 川瀬猪山氏/鎧兜 粟田口清信氏/木彫 渡邊宗男氏/金箔押 中澤孝司氏/蒔絵 下出祐太郎氏 取材は、職人方へのインタビュー、制作工程の整理、制作工程の写真と動画による撮影、完成作品の撮影という内容で進めている。そして随時、撮影画像の分類、整理を行うと同時に、取材内容の文章化、さらに報告書フォーマットの整理、レイアウトを進める そのうちの映像に関しては、撮影したものから順に工芸ごとに編集し、京都府主催の伝統工芸展覧会『京の名工展』(京都文化博物館)において、一般来場者に向けて上映をおこなった。この展覧会『京の名工展』に関しては広報ポスター、ちらし等のデザインをおこない、京都の伝統工芸の今を伝える展示のイメージディレクションを担当した。 また本研究では同時に新たな工芸品のデザイン展開を試みた。京七宝ではこれまでほとんどがアクセサリーなどの装身具に植物の図柄を加飾していたものを、コンピュータによる幾何学形状パターンの展開、レーザーカッターによる銀線加工などを行うことによって、まったく新たなタイルの提案をおこなった。京唐紙では、ベースの色を載せる具引き段階で、色料にお香の粉末を混ぜることによって、香りを発する唐紙の開発をおこなった。京瓦では、瓦素材を絵の具として使用するシルクスクリーン技法の開発と実装化の成功、さらに3Dプリンターを用いた成形型の制作をおこない、これまでとは全くことなる工芸の方向性を探った。これらの成果を京都市内のギャラリーで展示し、多くの来場者にむけて新しい工芸品のかたちを発信した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、引き続き、伝統工芸の名工の方々への取材を進めると同時に、京都の伝統工芸における多角的側面として挑戦的な工房や職人たちへの取材、調査、撮影、インタビューをおこなう。現在計画している取材先は以下である。京焼 永楽善五郎氏/磁器 高柳むつみ氏/染付 小坂大毅氏/京焼 植葉香澄氏/自然釉 デレック・ラーセン氏/たばた絞り/木彫京人形 森翠風氏/漆器 高島 新氏/黒谷和紙 林伸次氏/金工 伊庭拓也氏/京指物 大谷勝彦氏/京指物 櫻田武士氏/桶 近藤太一氏/造園 植彌加藤造園/和菓子亀屋良長 西村良和氏/和菓子鶴屋吉信 稲田慎一郎氏/日本酒 増田徳兵衛氏/茶 通圓祐介氏 ほか そして本研究の集大成として、報告書の作成、映像の編集を通じて、現代の京都の工芸技法のアーカイブズ化を実現し、次代に繋げる資産としての工芸の価値を視覚化させる。 3年間にわたって取材した伝統工芸を以下の素材による分野に分類し、京都府の認定を受けた名工たちと新しい展開を目指す若手新鋭の両者を見つめることにより、現代の京都における工芸の方向性を探る。繊維 金属 陶器 紙 人形 仏具 木 庭 味 また、『京の名工展』の広報ディレクション。映像の上映をおこなう。 さらにいくつかの伝統工芸工房で、新しい工芸技法の開発にも取り組み、デザインの具体化を実現し、2018年秋には展覧会を開催して発表をおこなう。それらの成果は作品集としてまとめることも検討している。
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Causes of Carryover |
計画的に使用していたものの、最終的な29年度集計ののちに届いた物品に関する請求書の額が2000円低かったために、次年度に合わせて物品の購入にあてるものとする。
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