2017 Fiscal Year Research-status Report
有形・無形文化財を対象とした立体映像表現における拡張呈示技法に関する研究
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16K00710
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石井 達郎 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (10363392)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 包囲感 / 臨場感 / 多面提示 |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題における平成29年度の研究計画は、記録蓄積した立体映像データを用いて拡張映像提示技法に応じた立体映像コンテンツを制作し投影実験までを行い技法の有効性について検討することであった。当初の予定では、正面の立体映像提示に加えて周辺視野の映像を2Dで提示しその効果を検証することであったが、周辺視野の映像に関して、2Dでの表示、立体での表示のいずれが効果的であるのかを確認すべきと考えた。さらにスクリーンを用いない、室内の壁面全面に投影する包囲感を高め臨場感を創出する多面提示環境を構築し、提示実験と検証を行った。 本研究で構築した提示システムは臨場感といったS3D映像の特性を生かした通常の展示スペースでも対応出来る小規模で導入しやすいS3D多面提示システムであることを目指した。 本研究では神楽を対象とした多画面提示による広視野表現に関する検討を行った。包囲感を表現するために必要なのは、周辺視野の視覚情報であり、人の眼の隅に入る周辺視野のイメージが、映像の中の世界に自分がいると思い込める状況を作り出せると仮説を立て、多面提示撮影用のS3Dカメラシステムを設計、構築し、さらに多面提示用の実験ブースを設計、構築して実験を行い、検証した。 その結果、S3Dによる5面提示が最も評価が高かった。映像コンテンツは「編集」を通してショットの切り替えによる「シーン」が形成される。多面提示は周辺視野までを覆い尽くす映像表現技法であるため、ショットの切り替えによる違和感の発生も考えられたが、概ね違和感のない結果となった。 また多面提示における映像構成として、「被写体の動作の範囲を一画面内に収める」こと、「シーンにおけるショットの切り替えを考慮した被写体の配置画面を検討する」ことが重要であることがわかった。また注視する「動きのある被写体」が周辺視野に散在しない表現設計が重要であることも明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の予定では、既存のスクリーンを中心に設置し、立体映像を投影、その周辺は2D映像で表現するという仕様になっていた。この場合、中心イメージと周辺視野イメージは融合しておらず、スクリーンの後ろにレイヤー上に周辺イメージが提示されている状態となる。本研究を進めていく上で、文化財が置かれている状況、周辺環境の様子までを、注視させたい主たる被写体が含まれる正面イメージとシームレスにつなげることが重要ではないかと考えた。 当初の計画では、スクリーンを用いて立体映像の拡張表現を試みようとしたが、そのスクリーンの存在自体が、臨場感、没入感の創出の妨げとなっているのではないかと考えた。それがスクリーン、映像が提示されていることを感じさせない提示・表現技法を検討するに至ったものである。そこで、新たに「包囲感」に着目した。眼を覆うような映像提示を行い、包囲感を創出することで、臨場感につながり、鑑賞者をより映像の世界に引き込む効果を生み出せると仮定し、多面提示手法を検討することとした。 結果として、当初の計画で想定される効果よりもさらに高い効果を確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
・コンテンツの一般公開による上映実験の遂行と評価検証:コンテンツ制作および提示実験を通して拡張立体映像表現技法を確立したのち、制作した立体映像コンテンツを博物館や公民館にて一般公開する。アンケート調査を行い本コンテンツの有効性と拡張立体映像表現技法の妥当性、効果について検証する. ・その他の有形・無形文化財に対する適用と検証:本研究において確立を目指す拡張立体映像表現技法は、神楽のみを対象とするものではない。無形・有形を問わず広く文化財を対象とするために、神楽以外の文化財も対象とした、本表現技法の有効性についても検証する。 ・本研究の成果の公表(学会発表・論文投稿):コンテンツの一般公開に加え,本研究の成果を学会で発表する。また論文の投稿も行う。 ・また現在、豊前市と公民館の展示スペースにおける展示のあり方について検討している。そこで本研究で開発したシステムを実際に導入し、現地で検証することを予定している。その前に、実験で得られた課題を解決し、再実験した上で提示システムの仕様を決定し、それを導入した上で現地で実際に上映しながら鑑賞者の評価を受けさらにコンテンツの表現手法を追求したい。また、同じく豊前市には求菩提山という修験道ゆかりの山があり、その資料館が麓にある。これについても、有形資産の多面提示による広視野表現の有効性を検証した上で豊前市にシステム導入を提案する予定である。神楽は、神社に設置された「神楽殿」で、五穀豊穣や豊漁などを感謝し、地域に住む氏子の生活の安定を祈り、地域で祀られている神々への信仰心を舞で表現したものである。こうした「神楽の舞」だけでなくそれが執り行われる舞台周辺の状況までを映像で提示し、臨場感を創出することでその地域に伝わる神楽の文化財としての重要さが伝わるものと考える。
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Causes of Carryover |
当該年度の予算に加えて次年度(平成30年度)の予算50万を前倒し計上した。 新規で実験用のシステム構築と、それにともなう被験者への謝金、実験にかかる人件費の計上であったが、システム用備品(PCパーツなど)の予定の額の変動による差額の発生などで、上記の金額が生じた。
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Research Products
(5 results)