2019 Fiscal Year Research-status Report
親の社会経済的環境からみた幼児の生活習慣の「乱れ」に関する質的研究
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16K00747
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
冬木 春子 静岡大学, 教育学部, 教授 (60321048)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 母親 / 就労 / 子ども / 生活習慣 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では「多重役割仮説」を参照した仮説「母親は親役割に加えて仕事役割を担うことで時間や心的エネルギーが消耗され、子どもに向けられるべきそれらが不足し、子どもの健康な生活習慣形成に悪影響が及ぶ」を検証した。小学校入学前の子どもをもつ269名の親を対象に質問紙を用いて、次の主な知見が明らかにされた。第一に、母親が有職の場合は子どもは就寝時間が遅く、夜間の平均睡眠時間では10時間を満たしていなかったが、母親が無職の場合は就寝時間が早く、平均睡眠時間も10時間を超えていた。第二に、母親の18時以降の帰宅時間の遅さは、子どもの就寝時刻の遅れやの睡眠時間の短さにつながるとした「多重役割仮説」は支持されたが、母親の帰宅時間の遅さは子どもの栄養あるいは献立バランス面における食習慣に影響を及ぼしておらず、仮説は支持されなかった。第三に、父親の帰宅時間の遅さは子どもの睡眠習慣や栄養や献立バランス面での食習慣には影響を及ぼしていないが、父親の帰宅時間が早いと家族との共食が可能であった。 この結果をふまえ、乳幼児をもつ15名の母親を対象とする面接調査を行い、質的分析を行った。結果からは母親の帰宅時刻の遅さは「ケア時間の不足」を生じさせ、子どもの夕食時刻の遅さ、就寝時刻の遅延化に関連していた。一方、母親の就労の有無や帰宅時間にかかわらず中食は利用されており、「手間をかけない」食事が浸透しつつあることも見いだされた。 以上より、幼児の生活習慣が母親の就労によって規定される影響力を鑑みると、子どもの生活習慣の形成には、社会におけるジェンダーエクイティや雇用環境の改善、さらには親に対する教育的支援が必要であると結論付けられた。食事の「手作り志向」は就労の有無や帰宅時間による「時間的余裕」と関連するのではないとの結果も得られたことから、このことについての詳細な分析が課題としてあげられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究ついては、研究計画通り、小学校入学前の子どもをもつ269名の親を対象に質問紙を用いて、量的調査及び分析を行った。また、量的調査の補完として乳幼児をもつ15名の母親を対象とする面接調査を行うことができた。これらの調査から得られた知見を学術雑誌等に成果として発表できたことから、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
既に学術雑誌等で研究成果を公表しているため、今後はこれらについて関連分野の研究者と意見交換を行い、母親の就労環境と子どもの健康について、国内外の研究の到達点をふまて、今後行うべき研究課題について明確にしていくつもりである。
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染症の影響で、関連領域である発達心理学会および発育・発達学会に参加する予定であったが、両学会とも中止になったことによる。また、小学校の臨時休校に伴い自宅にて子どもの世話をすることを余儀なくされたことや、研究の最終的なまとめについて、関係機関へ報告ができなかったことによる。 次年度は、研究の取りまとめに関して、関係機関への報告を行うための出張旅費として使用する予定である。また、発達心理学会および発育・発達学会に参加するための参加費及び出張旅費として使用する予定である。
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