2017 Fiscal Year Research-status Report
高効率,低環境負荷を目的としたファインバブル水の染色への活用
Project/Area Number |
16K00776
|
Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
天木 桂子 岩手大学, 教育学部, 准教授 (80193019)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ファインバブル水 / 低環境負荷 / 染色 / 繊維 |
Outline of Annual Research Achievements |
機能水のひとつとして注目されているファインバブル水(マイクロバブル水,ナノバブル水)は,微細気泡を水中に含泡させたもので,様々な場面で通常の水に比べて優れた性能を発揮すると期待されている.本研究は,このファインバブル水の染色への活用を試みたものである.すなわち,各種染色浴にファインバブル水を使用し,その染色性能をイオン交換水の染色浴と比較した優位性を環境負荷,高効率の観点から検証した. 初年度は植物染料を対象として染料抽出および各種繊維に対する染色性を探った.2年目となる本年度は,これに引き続き化学染料(合成染料)を対象とし,各種繊維に対する染色性能を明らかにしながら,通常の水染色と比較して優位性を検証した. 実験対象としたのは,直接染料,酸性染料,分散染料で,それぞれ市販品3種類(計9種類)を綿,毛,ポリエステルを対象に染色した.染色方法は浸漬染色,マグネチックスターラーを用いた回転浸漬染色の2方法にするとともに,染色温度,染色時間,助剤の有無などの条件を変化させ,結果を比較した. その結果,今回用いた化学染料は,ほぼ全ての条件下でイオン交換水染色とナノバブル水染色間に違いはほとんど認められず,ほぼ同様の濃度,色相に染まった.しかし,単なる浸漬染色に比べて,回転浸漬染色でわずかにナノバブル水が濃色に染まる条件の存在が認められた.例えば,硫酸ナトリウム(直接染料)やくえん酸(酸性染料)などの助剤を用いた場合で,助剤なしと助剤ありの染色布を比較してその効果を色差として算出すると,ナノバブル水による染色布が高い傾向が認められた.これは,ナノバブル水の効果は,より有利な染色条件下で発揮されやすい傾向を有すると解釈できる可能性がある.すなわち,ナノバブル水の優位性が発揮されやすい条件を見つけることで,様々な染色条件を設定する上で参考にできる知見を得ることにつながると判断された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
染色にファインバブル水を利用することを目的として,本年度は当初の予定に従って市販されている化学染料を対象に,各種繊維に様々な条件下で染色した.染色方法は,浸漬染色とマグネチックスターラーによる回転浸漬染色の2方法である.現時点で以下の結論を得ている. 1.直接染料を用いた綿繊維への染色では,通常の浸漬染色では温度上昇および染色時間の増加と共に濃色が得られるが,ナノバブル水とイオン交換水との差はほぼ認められない.しかし,回転浸漬染色では,助剤として硫酸ナトリウムを加えると,イオン交換水に比べてナノバブル水がやや濃色に染まり,助剤の効果が顕著に発現される. 2.酸性染料を用いた毛繊維への染色では,通常の浸漬染色では温度上昇および染色時間の増加と共に濃色になるが,ナノバブル水の優位性はほぼ認められない.しかし,回転浸漬染色では,助剤としてクエン酸を加えると,ナノバブル水がより濃色に染まり,直接染料と同様,助剤の効果が出やすい傾向が有る. 3.分散染料を用いたポリエステル繊維への染色では,染色条件の違いによる実験結果に差がほとんど認められなかった.また,130℃の高温染色も行ったが,ムラ染めになりやすく,水の種類による差も得られなかった. 以上より,化学染料はそもそも対象繊維に対して染まりやすいことから,通常のイオン交換水で十分に濃色が得られており,ナノバブル水の優位性は発現しにくいと考えられた.しかし,回転浸漬染色や助剤を用いた場合にナノバブル水の効果がわずかに認められたことから,ある種の限られた条件下でその効果を発揮する(染色効果を引き出しやすい)と推察され,今後はナノバブル水の効果が発現されやすい条件を検証する必要性が感じられた.
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる来年度は,1年目で行った植物天然染料染色(草木染め),2年目で行った化学染料(合成染料)染色を踏まえ,これまでに得られた結果をもとにさらなる染色実験を行う計画である. これまでの実験を検証すると,通常の水に比べてナノバブル水の優位性が認められやすかったのは,1年目に取り上げた植物染色で,2年目の合成染料を用いた染色はほぼ全ての条件下で十分濃色に染まり,水による差はほとんど認められなかった.このことから,ナノバブル水の有効性を明らかにするには,天然染料にその可能性があると判断される.さらに天然染料の場合,原料植物からの染料分子の抽出とそれを用いた各種繊維への染色の2行程が必要なため,ナノバブル水がどちらの行程により有効に機能するか興味がある.このことを踏まえ,最終年度は,天然染料に関して引き続き実験を重ねる予定である.対象も1年目で取り上げたハーブ染めのみではなく,他の植物材料を用いた染色でも検証したい. 一方,これまでは,各種繊維への染色効果を色の濃淡のみで判断してきているが,例えば,染色後の布や繊維の物性(強度,伸度,剛軟性など)や各種性質(親水性,撥水性,保温性など)といった点での評価は行っていない.実際に製品として利用することを考えると,こうした消費性能は評価点の一つとして取り上げる必要がある.これらの性質に関して,通常の水染色布とナノバブル水染色布を比較することで,これまでとは異なった視点でナノバブル水の有効性を見いだすことができれば,より広範囲に利用できる可能性が明らかになる. 以上より,今後の課題としては,これまで行ってきたナノバブル水の高効率染色への応用とともに,染色製品の各種性能を比較した評価の2点が挙げられると判断し,さらなる実験を試みる予定である.
|
Causes of Carryover |
(理由) 本年度行った実験が,すべて初年度(H28)に購入した備品及び消耗品,さらには研究室に既存の実験装置や器具を用いて実施したことから,新たな物品の購入が最小限で済んだためである.本年度の実験は,初年度(H28)と内容が基本的に同じで,実験条件や対象材料を変化させたものだったことから,新たに機器などを購入する必要が生じなかった. (使用計画) 繰り越した助成金は,次年度分と合わせて,使い切った消耗品の補充や研究成果の発表旅費などに使用する予定である.また,研究執行中に生じる新たな疑問点や検証点などを明らかにする上で必要な物品を購入する費用としたい.
|
Research Products
(2 results)