2017 Fiscal Year Research-status Report
フィブロイン結合ペプチドを用いた絹繊維の1ステップ抗菌化
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16K00806
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Research Institution | Okinawa Institute of Science and Technology Graduate University |
Principal Investigator |
野村 陽子 沖縄科学技術大学院大学, サイエンステクノロジーグループ, サイエンス・テクノロシ゛ー・アソシエイト (90302794)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ペプチド / シルク / フィブロイン繊維 / 抗菌性 / 次世代シークエンシング |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、平成28年度に得られた結果をさらに発展させ、新規に得られたペプチドについて、実際にシルク(フィブロイン)繊維を用いて抗菌性試験を行った。また、フィブロイン結合能を持つ全く新しいペプチド配列の探索に注力した。 昨年度までにフィブロイン繊維結合力の向上を目的として、既報のフィブロイン繊維結合モチーフQSWSを繰り返したところ、高い結合能力を持つことが明らかになった。しかし今年度、この配列を抗菌性ペプチドに組み合わせたところ、ペプチドの抗菌性が消失することがわかった。また申請書に記載した、PCR増幅法も試みたが候補となる配列は得られなかった。このため、全く新しい探索方法による、新しいペプチド配列の獲得を試みた。すなわち、M13ペプチドライブラリーを用いてパニング後にフィブロイン繊維上に濃縮された配列を、次世代シークエンシングにより解析を行うことで、これまでよりはるかに多くの配列を解析した。ここで新しく得られた配列のC末端をビオチン化し、ELISAでフィブロイン繊維への結合を確認したところ、既報の配列よりフィブロイン結合能力が高いことが示された。そこで、この全く新しいペプチド配列のC末端に抗菌性ショートペプチドRRRWWW-NH2を連結させて、大腸菌(グラム陰性菌)とスタフィロコッカス(グラム陽性菌)に対する抗菌活性を調べたところ(タイムキルテスト)、どちらにも抗菌活性の低下は見られなかった。 さらに、この新しい配列について、実際にフィブロイン繊維を用いてJIS法を参考にした抗菌活性試験を行ったが、再現性の問題が生じた。これは、調整後のペプチド溶液の安定性に起因するようであり、実際の使用に関してはさらなる検討が必要であることがわかった。 また、実生活におけるこれらのペプチドの利用を最終的な目的としているために、これを想定したスタフィロコッカスを用いた予備実験も進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書の研究実施計画に記載した通り、2年目の平成29年度では、より強くフィブロイン繊維に結合する、全く新しいペプチド配列をいくつか獲得することができた。さらにこの配列に抗菌性ペプチドを組み合わせた新しい配列を使って、フィブロイン繊維を用いた抗菌性試験を行うことができた。このときに、大腸菌(グラム陰性)に加えて、スタフィロコッカス(グラム陽性)についても抗菌試験を進めることができた。このようにグラム陰性・陽性菌の両者に対する抗菌活性を確認するという内容も、申請書に記載した平成29年度の研究実施計画通りである。 一方で、予想しなかったペプチド溶液の安定性の問題が明らかになった。この点も含め、実際の使用においてのさらなる条件検討と調整が必要であり、これは次年度行う予定である。 また、研究実施計画に記載した通り、このペプチドを実生活に使用をすることを目的とした実験を来年度に進めることを考え、材料の確保(界面活性剤を含む試薬類の入手など)と、予備実験であるスタフィロコッカスの培養実験を行い、準備を整えることができた。 以上のように予期しなかった再現性の問題が生じたものの、それ以外については平成29年度の研究実施計画通りに進んでいることから、この研究はおおむね順調に進展しているとの判断を下した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は最終年度であることから、研究実施計画に記載したように、昨年度までに得られたペプチド(フィブロイン繊維に結合しかつ抗菌性も持つペプチド)について、実生活において使用することを想定して検討を行う。 このときに新鮮な合成ペプチドが必要となるために、昨年度繰り越しの23万円で、コントロールのペプチドも含めて各種ペプチドの合成を行う。具体的には、昨年度に得られた新規のフィブロイン繊維結合ペプチドにリンカー(GGGS)を介してC末端に短い抗菌性ペプチド(RRRWWW-NH2)を連結した配列とコントロールのペプチドを合成する。そしてこれらをフィブロイン繊維に作用させて調整した繊維を用いて、大腸菌(グラム陰性菌)とスタフィロコッカス(グラム陽性菌)に対して抗菌試験を行う。この時に、昨年度問題になったペプチドの安定性についても確認を行う。 さらに申請書に記載した本研究の最終目的である、沖縄のような高温・多湿な環境下での抗菌性ペプチドの利用を目的とした実験を進める。この実験時には、申請書に記載した購入予定の備品である、恒温・恒湿インキュベーターや、昨年度中に準備した洗剤配合用界面活性剤を用いる。すなわち、本研究でこれまでに得られたフィブロイン繊維結合抗菌性ペプチドによる抗菌処理/未処理のフィブロイン繊維を調整し、ここに適当な培地を含ませ、恒温・多湿(30-37℃、湿度80%)な条件下でスタフィロコッカスを培養し汗臭を発生させる。このときに発生する臭気(酢酸・低級脂肪酸)を測定し、実際の使用についての評価を行う予定である。 このように最終年度では実際の使用を目的とした実験を進める。得られた結果は、社会への成果の発信を目的として日本家政学会や日本防菌防黴学会などで発表することを予定しているが、実用性が非常に高いと判断された場合は、特許申請も検討する予定である。
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Causes of Carryover |
今年度のフィブロイン繊維を用いた抗菌性実験の結果から、ペプチド溶液の安定性の問題が明らかになった。研究実施計画では、今年度中に次年度(最終年度)に用いるペプチドの合成も全て行う予定であった。しかし、この安定性の問題を考慮し、ペプチド合成を各々の実験直前に行った方が良いと判断した。このため、最終年度で使用するペプチドの合成(外注)分の予算を繰り越そうと考えたことから、次年度使用額が生じた。 次年度では実験準備が整い次第、この繰り越し予算でペプチドの合成を外注する予定である。具体的には、コントロールのペプチドも含めて数本を予定している(5-6万円程度/本)。このペプチド合成の外注により、次年度へ繰り越しされた予算は、全て速やかに使用される予定である。
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