2017 Fiscal Year Research-status Report
マツタケの特徴的な香りの生合成遺伝子を単離してヒラタケに導入し,その香りを作る
Project/Area Number |
16K00839
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Research Institution | Nagaoka National College of Technology |
Principal Investigator |
田崎 裕二 長岡工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (90390434)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | マツタケ / 菌糸体 / 香気成分 / 桂皮酸メチル / 生合成酵素 / フェニルアラニンアンモニアリアーゼ / 桂皮酸カルボキシルメチルトランスフェラーゼ / 遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
食用キノコにおいて,マツタケの独特の香りが日本人に大変好まれている.その香りの主成分は桂皮酸メチルであるが,この成分がなぜマツタケとその近縁種キノコのみで検出されるかは分かっていない. 本研究では,フェニルアラニン(Phe)から桂皮酸メチルの生合成経路において,桂皮酸から桂皮酸メチルの生成に関与する桂皮酸カルボキシルメチルトランスフェラーゼ(CCMT)に焦点を当てて,遺伝子レベル・蛋白質レベルから明らかにすることを目的とする.また,マツタケ風味の新品種キノコの作出の先駆けとして,ヒラタケにCCMTを付加して,ヒラタケにおけるマツタケの特徴香の生合成を調べる. 平成29年度においては,「桂皮酸メチルの材料添加による菌糸体の桂皮酸メチル生合成の効果の解析」と「マツタケのCCMTをコードする遺伝子cDNAの単離と発現解析」を試みた.これまでに,マツタケ菌糸体の培養途中にPhe(Pheアンモニアリアーゼ[PAL]の基質)を添加したところ,桂皮酸メチル生合成酵素の一つであるPAL2(TmPAL2)の遺伝子の発現量が,桂皮酸メチル量と共に増加することを明らかにしている.よって,CCMTもその基質である桂皮酸の添加により,その遺伝子の発現量が増加すると考えられる.そこで初めに,桂皮酸を添加した培地で培養したマツタケ菌糸体の桂皮酸メチル量が,無添加の培地で培養した菌糸体より,約30倍増加することを明らかにした.次に,マツタケの公開ゲノム配列(DOE Joint Genome Institute)より,CCMTの候補となる10個のメチルトランスフェラーゼの遺伝子を選択した.桂皮酸添加及び無添加の培地で培養したマツタケ菌糸体の総RNAを用いて,リアルタイムRT-PCRで各遺伝子の発現量を調べた.その結果,一つの遺伝子の発現量が桂皮酸の添加により約4倍増加したため,これをCCMTの候補遺伝子とした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
平成29年度の研究実施計画②『桂皮酸メチルの材料添加による菌糸体の酵素CCMT活性と桂皮酸メチル生合成の効果の解析』において,マツタケ菌糸体の培養途中に桂皮酸メチルの材料の一つと考えられる桂皮酸を培地に添加して,菌糸体中での桂皮酸メチルの合成量が増加することを明らかにした.これより,桂皮酸が桂皮酸メチルの材料(中間産物)であることが推定できた.しかし,菌糸体中には,他のメチルトランスフェラーゼが多数含まれるため,特異的にCCMTの活性を測定することはできなかった. 計画③『CCMT遺伝子の子実体・菌糸体での転写量測定』において,計画②の結果に基づいて,培地への桂皮酸の添加により,菌糸体中での発現が約4倍増加した一つのCCMT候補遺伝子を選択できた.現在,マツタケ子実体のおける発現量の解析を行っている. 計画④『CCMT遺伝子を導入したヒラタケにおける桂皮酸メチル生合成の調査』において,CCMT候補遺伝子の単離が遅れたため,未着手のままとなっている.
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Strategy for Future Research Activity |
マツタケの特徴香である桂皮酸メチルの生合成機構を解明するため,平成30年度においては,マツタケのCCMTをコードすると考えられる遺伝子の機能を解析する.また,マツタケの菌糸体及び子実体におけるCCMTの遺伝子発現と桂皮酸メチル量の関係を明らかにする.さらに,ヒラタケにCCMT遺伝子を導入し,合成した酵素CCMTの桂皮酸メチル生合成に対する効果を明らかにするとともに,ヒラタケを用いて桂皮酸メチルを生合成する新品種キノコの作出の可能性を検討する.これらの目的を達成するため,平成30年度では以下の研究の実施を予定している. 計画③『CCMT遺伝子の子実体・菌糸体での転写量測定』 CCMTの候補遺伝子の転写量を,リアルタイムPCRを用いて測定する.測定試料には,取得済みの子実体の生長過程及び各部位,収穫後保存した子実体の総RNAを用いる.これにより,解析済みの菌糸体と子実体における遺伝子mRNAの発現の量,場所,時期,誘導といった発現様式を調べる. 計画④『CCMT遺伝子を導入したヒラタケにおける桂皮酸メチル生合成の調査』 ヒラタケの遺伝子導入系を用いて,マツタケのCCMT候補遺伝子cDNAを導入する.そして,ヒラタケで合成された酵素CCMTの桂皮酸メチル生合成に対する効果を,その菌糸体と子実体中の桂皮酸メチル含量を測定して明らかにする.子実体はPheを添加した培地で発生させ,Pheの添加による桂皮酸メチル生合成の効果も調べる.これらより,桂皮酸メチルを生合成する新品種キノコの作出の可能性を検討する. 計画⑤『組換えCCMT蛋白質の産出と性質化』 計画④で取得したCCMT候補遺伝子cDNAを用いて,大腸菌発現系pETシステムにより組換えCCMT蛋白質を産出する.その後,各種クロマトグラフィーを用いて精製後,基質特異性等の酵素化学性質を明らかにする.
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