2016 Fiscal Year Research-status Report
穀類の摂取による高血圧症の予防効果と腸内代謝を介したメカニズムの研究
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16K00867
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Research Institution | Otsuma Women's University |
Principal Investigator |
青江 誠一郎 大妻女子大学, 家政学部, 教授 (90365049)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 血圧 / 食物繊維 / 大麦 / 昆布 / アンジオテンシン変換酵素 / 内臓脂肪 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,当初の目的である高βグルカン大麦に効果を調べることを目的として,まずは他の素材と比較して有効性がどの程度あるのかを実証した。 5週齢のC57BL/6J雄マウスを用い,1群8匹の4群に群分けした。コントロール(C群)の飼料はAIN-93組成を基本とした。脂肪エネルギー比が50%となるようラードを添加し,総食物繊維量が5.0%となるようセルロースを添加した。大麦群(B群)は,高βグルカン大麦(ビューファイバー)を使用した。全脂粉乳群(M群)は,全脂粉乳を使用した。とろろ昆布粉末群(T群)は,市販のとろろ昆布を凍結乾燥した後,粉砕して使用した。飼料はそれぞれ12週間自由摂取させた。血圧測定はマウス非観血圧測定装置(BP-98A,(株)ソフトロン)を用いて行った。血清脂質は酵素法にて分析した。肝臓脂質はFolch法により抽出後,同様に酵素法で分析した。アンジオテンシンⅡは,ELISA法で分析した。アンジオテンシン変換酵素(ACE)活性測定には,測定キットを用いた。 内臓脂肪重量(腸間膜脂肪重量)はT群,B群が有意に低かった。肝臓脂質のうちトリグリセリド濃度はT群が有意に低かった。血圧はT群<M,B群<C群で有意に低かった。ACE活性は,有意差はなかったがT群<M群<B群,C群で低い値を示した。アンジオテンシンⅡ量は,有意差はなかったがT群,B群<C群<M群で低かった。以上の結果より,とろろ昆布,大麦,全脂粉乳には血圧降下作用が,また食物繊維を多く含むとろろ昆布と大麦には肥満抑制作用があると示唆された。各種食品の血圧降下作用はそれぞれ異なり,食物繊維にはACE活性阻害によらない別のメカニズムが存在すると推定した。一方,メタボロミクス解析用のソフトウェアも導入終了し,盲腸内容物あるいは血清のメタボロミクス解析の体制を整えた,次の実験では,解析を追加していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来の高血圧症の予防効果は,食品では主にアンジオテンシン変換酵素の阻害作用を介する研究がほとんどであった。本研究は,インスリン抵抗性による血圧上昇,脂肪細胞の機能破綻によるアンジオテンシノーゲンの過剰分泌を抑制することによる血圧上昇抑制効果を新たなメカニズムとすることに新奇性があり,着目した。また,本年度の目的である,高βグルカン大麦が血圧に及ぼす影響を調べる前提として,その他の素材との比較をはじめに実施し,異なるメカニズムが存在することも明らかにできた。本結果より,当初の仮説である,高βグルカン大麦に内臓脂肪蓄積抑制や肝臓の炎症抑制効果があることから,アンジオテンシン変換酵素阻害(ACE阻害)によらないメカニズムがあることが証明できた。 また,第二の目的であるGC/MSによる盲腸内容物や血清のメタボロミクス解析のための多変量解析ソフトウェアを導入することができ,今後解析に用いる体制が整った。 以上のことから,ほぼ目標が達成されたと判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度にひき続き,高脂肪食と穀類の摂取がマウスの血圧に及ぼす影響を評価する。 大麦のβグルカンの機能を調べることを目的に高βグルカン大麦とグルカン含量が非常に少ない(または検出されない)大麦間で比較する。マウス用非観血自動血圧装置を用いた血圧の経時的な測定,耐糖能試験(OGTT)を実施する。また,解剖時には血清インスリン濃度,アンジオテンシン変換酵素活性,アンジオテンシンⅡ,脂肪組織のアンジオテンシノーゲン,PAI-I,TNFαのmRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定する。さらに、血清または盲腸内容物のメタボロミクス解析をGC/MSにて行い,血圧低下と関連する代謝物を検索する。盲腸内容物に差が認められた場合は,発酵性の異なるバーリーマックスなどを素材に追加して,腸内発酵と血圧調節の関係を検索していく計画である。 特に次年度は,導入した多変量解析ソフトウェアを駆使したメタボロミクス解析を重要課題として取り組む予定である。
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