2017 Fiscal Year Research-status Report
途上国におけるアルツハイマー病発症リスクの検証: 食と環境との関わり
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16K00909
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
翠川 薫 三重大学, 医学系研究科, リサーチアソシエイト (20393366)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
村田 真理子 三重大学, 医学系研究科, 教授 (10171141)
中村 哲 広島文化学園大学, 看護学部, 教授 (40207874)
翠川 裕 鈴鹿医療科学大学, 保健衛生学部, 准教授 (10209819)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 / ラオス / アルツハイマー / 生活習慣病 / 生活環境 / 認知症 / APOE |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病(AD)はWorld Alzheimer Report 2016 によると現在推計4680万人の患者が2050年には1億3150万人に増大すると警告している。我々は過去15年以上にわたり、途上国ラオスで住民の健康と環境について調査をしてきた。その結果、マラリア、サルモネラなどの感染症はこの10 年で減少し、肥満と糖尿病が有意に増加していたが、病院統計上AD 患者は依然として確認できていない。生活習慣病はAD 発症のリスク要因であることから、食や環境因子に注目し予防法を探索するのが本研究の最終目標となる。我々が調べたラオス人のAD 危険因子APOEe4 遺伝子を持つ割合は、多数民族ラオ人では、ホモ(e4/e4)で約1%と日本人に近いが、ヘテロ(e4/ex)は25%で日本人(11.5%)よりも高かった。特に少数民族の中で、ホモが14%、ヘテロ66%と高い民族がおり、彼らは貧困層にあり、健診の結果では、生活習慣病は認められなかった。しかし将来、生活習慣病が増加した時、AD 発症リスクは高くなると予想された。H29年度にはビエンチャン郊外の農村で65歳以上の高齢者の健診と認知症スケール調査を行った。20点以下の認知が疑われる者は約60%であり、糖尿病が疑われる者または病院で診断された者は36%であった。30歳以上の成人を対象にH24年に行った健診では、糖尿病が疑われる者が約20%であり、高齢者においても糖尿病患者が多いことが認められた。また、研究交流事業として、H29年12月にマホソート病院の共同研究者2名を招聘し鈴鹿医療科学大学で研究交流会を行った。H30年2月に第88回日本衛生学会学術総会において、国立マホソート病院から共同研究者2名を招聘し感染症を含むラオスの現状についての発表を行った。日本の高齢者施設の見学等を通して制度の在り方について意見交換を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの長期の調査実績により当該国の研究機関および調査対象の村人との協力体制が確立されていることから、おおむね目標どおりの成果が得られている。H28年度に行った調査対象村の全戸アンケートの結果から、H29年9月とH30年2月の2回に分けて、65歳以上の高齢者を対象に健康診断を実施した。その結果、認知症スケールで、20点以下の認知が疑われる者が約60%、糖尿病の疑いがある者または病院で診断された者は36%であった。共同研究のマホソート病院での認知症の患者探索は依然として難しいが、これも予想通りではあるので、引き続き医師との連携を継続していくことが重要と考えている。H30年2月の調査では、副病院長の紹介で認知症の疑いのある患者を市街70km地点の村へ調査に行ったところ、認知スケールで評価できないほどの重度の認知症の87歳男性を確認できた。健康状態は食欲旺盛で、血圧も血糖値も正常範囲であったが過去に徘徊の症状があり、現在は歩くこともできなくなり最も大変な介護は入浴であるとの情報を家族から得た。現在ラオスには介護施設は無く、家族が全面的に介護している。大家族制が維持されている農村では可能であるが、共働きの世帯が増えてくると、介護施設があれば家族は介護から解放され働くことができる、との家族の切実な意見を得た。以上のように、認知症患者は病院では発見されず、村に潜在していることが明らかになったことから、今後も直接現場に入り調査することが重要と考える。また、研究交流事業として、H29年12月にマホソート病院の共同研究者2名を招聘し鈴鹿医療科学大学で研究交流会を行い、日本の高齢者施設の見学等を通して制度の在り方について意見交換を行った。H30年2月には第88回日本衛生学会学術総会において、別の共同研究者2名を招聘し感染症を含むラオスの現状についての発表を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画どおり、昨年度の高齢者の健康調査の結果をまとめると同時に、今年度は隣接する塩工場で働く村で、同様の全戸アンケートを実施し、住民の基礎データの収集を行う。さらに、基礎データから割り出した高齢者の健康調査を実施し、高齢者の認知症予備群が潜在するのか検証する予定である。また、H29年度の調査結果からターゲットをしぼり、高齢者の食生活および生活環境の調査を行い、健康との関連因子を検索する。H28年度に行った村の全戸アンケート調査より経済成長による人々の暮らしの変化、特に収入や家電等の保有率の変化を解析し、生活習慣病との関係を評価する。同時に培養細胞を使った環境因子や食因子の検討を行う。
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Causes of Carryover |
理由:H29年度は、共同研究者からレンタカー費用および共同研究者の調査渡航費用の提供により、予定額より支出が抑えられた為、未使用額が生じた。 使用計画:30年度は、29年度未使用額と合わせて、当該国フィールド調査のための出張費、研究協力者への謝金、健康調査のための器材購入費(HbA1cおよび血糖値測定器等)、水と食品の有害金属の汚染状況を測定するための試薬・器材、毛髪からの有害金属検出の委託費、アンケート、健康診断用紙、報告書等の印刷費、培養細胞実験の試薬等に計画どおり使用する。さらにH24年度秋からラオス新政府の方針転換により、すべての研究調査に関して毎年倫理委員会の承認を受けなければならないので、その経費に使用予定である。
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