2016 Fiscal Year Research-status Report
高塩食負荷高血圧症における血管弾性線維構造の破綻と減塩食の効果
Project/Area Number |
16K00910
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
大塚 愛二 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 教授 (50168986)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
品岡 玲 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 助教 (90724500)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 高血圧 / 冠状動脈 / 弾性線維 / 走査型電子顕微鏡 / 樹脂注入後消化法 / 高血圧モデルラット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,食塩負荷高血圧時に動脈の弾性線維ネットワークがどのようになるかを調査することが目的であるが,本年度は,そのために,どの動脈を利用して調査するかをまず検討した.それは,これまで,下腹壁動脈の枝を観察対象として血管壁の弾性線維ネットワークを観察してきたが,心臓の冠状動脈などが実際の高血圧症で影響を受けて症状をあらわすなど臨床的に重要である.しかしながら,冠状動脈は,一般の動脈と異なり収縮期よりも拡張期に血流が多く流れるなど循環動態が異なっていて,弾性線維ネットワークの構造が一般の血管の所見がそのまま当てはまるのかどうか不明である.そこで,心臓の冠状動脈でどのような弾性線維ネットワークが見られるかをまず確認した.Wistarラットの心臓の冠状動脈において,血管鋳型樹脂注入後蟻酸消化法により弾性線維ネットワークを残し,走査型電子顕微鏡で観察した.冠状動脈の枝と下腹壁動脈の枝の弾性線維ネットワークは,基本的に似ており,幹の部分では板状に小孔が散在するいわゆる弾性板の構造を示していた.末梢に向かうにつれて小孔が拡大し,直径100μm前後で網目状となった.さらに細動脈レベルでは弾性線維は疎になり,編み目が粗くなっていき,ついに毛細血管へと移行していた.高血圧症モデルラットでは,細動脈において弾性線維ネットワークの一部が微小に断裂していることを確認した.このような断裂を引き起こすには,何らかのエラスチン分解酵素が周囲の細胞から分泌された可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初計画においては,血管弾性を測定する予定であったが,測定方法の検討を詳細に行った結果,必ずしも測定する必要は現時点ではないのではないか,それよりも正確な形態学的な情報を調査して,高血圧の病態がどのように動脈壁の弾性線維ネットワークに影響するのかを精査するべきであるとの結論に達し,現在研究を推進中である.ラット用の血圧計は,以前は他の教室から借用していたが,実験計画に支障をきたすため購入した.一方で,弾性測定機器として購入予定としていた加速度脈波計を導入するよりも,形態学的解析にさらに注力する方向が有用であるとの判断で進めた.血管鋳型樹脂注入後消化法は,前提として良好な血管鋳型を作成することが求められる.28年度の研究計画の中で,心臓に分布する血管の鋳型作製は,元来難しく,やや時間がかかったが,良好なものを得たので,他の末梢血管と比較可能なデータを得ることができた.
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Strategy for Future Research Activity |
29年度以降は,まず,高血圧モデルラットにおける冠状動脈壁の弾性線維ネットワークの断裂の状況をさらに詳細に観察する予定である.とくにどのレベルの血管の弾性線維が傷害を受けやすいのか確認する.また,どの細胞が関与するのかを追及する.エラスチン分解酵素の分泌細胞の同定を試みる.また,弾性線維ネットワークの透過型電子顕微鏡に基づく観察,動脈硬化マーカーとの関係などを解析する予定である.動脈硬化症の指標として、代表的な血中マーカー(NOx, トロンボモジュリンなど)を追加し、弾性線維の変化との関係を明らかにする。また内皮障害を組織学的にも評価する。
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Causes of Carryover |
当初計画では,28年度に血管弾性測定機器として加速度脈波測定器を購入し,測定する予定であったが,その測定方法と精度意義について詳細に検討したところ,ラット心臓冠状動脈について測定することが必ずしも容易ではなく,また今後の研究遂行に必ずしも必要とは言えないのではないかという結論に至った.ラット用の血圧計を購入したが,この機器を必要とする他の研究費との合算で購入したため負担額は少なかった.これらの事情と当初購入予定機器を購入しなかったため,次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
詳細な,形態学的検討を実施するためには,電子顕微鏡観察に加え,免疫組織化学,in situ ハイブリダイゼーション法など,さらに注力していく予定である.これらを遂行するために相当な経費を必要とする.
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