2017 Fiscal Year Research-status Report
変数概念を軸とした算数・数学連携カリキュラムの開発:認知的ツールとして文字式
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16K00954
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Research Institution | Joetsu University of Education |
Principal Investigator |
布川 和彦 上越教育大学, 大学院学校教育研究科, 教授 (60242468)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 変数 / 中学校数学 / 関数 / 方程式 / 変量 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、変数の概念を軸として小学校高学年の数量関係から中学校の文字を利用する諸単元についてのカリキュラムの開発を目指すことである。平成29年度においては、前年度の課題も受けて次のような作業が試みられた:(1) 前年度に記録された授業のデータについて、変数の観点からの考察を進め、乗法構造の学習を変数の観点から捉え、その知見を本研究の枠組みに組み込むこと;(2) 関数領域以外の変数の取扱いを視野に入れて文字に関わる諸単元の取扱いを考察すること;(3) 中学校の授業記録を収集すること。 具体的には次のように作業を行った。(1)については平成28年度に小学校5年のクラスで記録した60時間分のデータのうち、特に「単位量あたりの大きさ」の単元についての分析考察を進めた。その際に、変数の前段階としての変量の概念を適用し、単位量あたりの大きさがある種の変量を表現するものであるとの立場からビデオデータの考察を進め、その変量を学習者に意識してもらうための支援のあり方に関わる知見を得た。(2) については、(3)で述べる中学校の授業記録のうち、1次方程式単元の分析を進め、教師の指導だけでなく学習者の思考の中にも変数的な扱いが自然に見られることを見出した。方程式の解法を学習する前の段階だけでなく、解法の学習後であっても、未知数に当たる量を変数的に扱い問題場面の様子を把握することが、中学生により自発的に行われていた。ここから、Functional Approachで提唱された思考過程は、学習者にとってむしろ自然な思考の仕方であることが示唆された。(3)については中学校2年および3年の関数単元の授業をそれぞれ17時間、20時間ビデオカメラを用いて記録するとともに、中学校1年の文字に関わる3単元(文字式、1次方程式、比例と反比例)の授業を合計44時間分、ビデオカメラで記録を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度の研究計画としては、Early Algebraの先行研究の検討、文字に関係する諸単元の分析、平成28年度に記録したデータの分析、および中学校の授業に関わるデータの収集であった。 このうちEarly Algebraの先行研究の検討についてはまだ作業が遅れているが、実績の概要で述べたように、他の3つの目標については概ね計画に沿って進んでいる。中学校の授業に関わるデータについては、関数領域の授業を中心に、文字を用いる授業5単元分、総計81時間分の授業をビデオカメラで記録することができた。さらにそのうち、1次方程式の単元と反比例の学習に関わる部分については、既に分析・考察が進められており、一部結果をまとめることができた。特に反比例の学習の部分の分析からは、パターンの科学に基づく数学教育の枠組みによって生徒の直面する困難を解釈するというアイデアが得られ、これを変数概念の理解に援用するという1つの可能性が開かれた。文字の利用に関連する諸単元(文字式の学習、方程式の学習)については、現代化期の教科書についてこれらの諸単元を分析するという作業には遅れが見られるものの、逆に中学校で記録された授業のデータの分析・考察については計画を前倒しして行うことになり、結果として方程式単元における授業や生徒の思考の中の変数的扱いを見出すことができた。これらの知見は、本研究が目指すカリキュラムの開発に資する情報であり、当初の見通しとは少し異なるものの、計画の進展に当たると考えられる。前年度に記録したデータの分析については、計画に沿って進められており、その知見については論文として発表することができ、また変量から変数への移行という本研究でのカリキュラム開発に資する可能性を持つ視点を得ることができた。 以上の進捗状況に鑑み、報告のような達成であると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
変数の観点からカリキュラムを見直し、関連する諸単元をより統合された形で扱えるようにするという全体の方向性には変更はないため、今後の研究も、平成28年度および29年度に得られた成果にもとづき方向の修正は施しつつ、その基本的な計画にそって進められることとなる。 上述のように、先行研究の調査のうちEarly Algebraに関する研究の調査が、また文字の利用に関連する諸単元の検討のうち現代化期の教科書における文字の利用や方程式単元の分析に遅れが見られることから、これらの検討を行い、カリキュラムの基本的な構造に反映させる必要がある。その際に、平成29年度の授業の記録と予備的考察から得られた、生徒の直面する困難とパターンの科学という考え方との関連を採り入れ、パターンの科学の観点から数学学習において必要とされる移行が、文字の利用に関わる諸単元において意図的に行われるようなカリキュラムの基本的構造を構想する必要が出てきている。他方において、やはり平成29年度の授業の分析から見出された、方程式の学習において生徒の思考に変数的な捉え方が見られるという知見を生かすことが必要となった。さらに、平成28年度のデータからは算数の学習内容を変量の観点から分析し、そこから有効と思われる指導の手立てを見出すことができた。ここで数学史的に変量から変数への移行があったことと、授業のデータから得られた上述の知見を組み合わせることで、小学校算数から中学校数学における変数の理解の発達を埋め込むようにして、関連諸単元を構想することができるのではないかとの予想が得られている。したがって、この予想に沿った形でカリキュラムの基本構造を構想するとともに、そこに教科書の分析などを参考に構成される学習活動の系列で肉付けしてカリキュラムを開発することが、最終年度の作業となる。
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Causes of Carryover |
過去の教科書の複写に関わり、複写箇所の特定に遅れが出たために前年度内で複写依頼ができなかったため。ビデオデータの分析の進展により、複写箇所が特定されたので、今年度にその分の複写を行い、その複写代金として利用する予定である。
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Research Products
(5 results)