2018 Fiscal Year Research-status Report
光と物質の相互作用を用いたミクロの世界の探究法と教材開発
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16K00980
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Research Institution | Seinan Gakuin University |
Principal Investigator |
松村 敬治 西南学院大学, 人間科学部, 教授 (40157350)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
塩野 正明 西南学院大学, 人間科学部, 教授 (80235499)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 理科教材開発 / マイクロ波分光の教材 / 赤外分光の教材 / 紫外可視分光の教材 / シャボン玉の干渉 / 膜厚測定 / X線回折の教材 / エッシャー図形 |
Outline of Annual Research Achievements |
ここでは、最初に本研究の目的について簡単に述べ、そのあと現在までの研究実績の概要について述べる。 本研究の目的は、「物質」と「光」の相互作用を用いてミクロの世界を探究して解明する教材を開発し提供することにより、理科教育の振興を図ることである。具体的には次の4つのことを目的としている。①分光法を用いて、マイクロ波と分子構造の関係や、赤外線と温室効果ガスの関係や、可視光・紫外線と原子・分子の関係を解説する教材の開発を行う。②光の干渉を用いたシャボン玉やセッケン膜の膜厚測定の教材化に関する研究を行う。③光のハンカチなどによる回折を用いてX線回折の原理を説明する教材を製作する。④作成した教材を地域社会へ向けた自然科学の啓蒙活動の中で公開し、理科教育の振興を図る。 続いて、現在までの研究実績の概要について述べる。①液体のマイクロ波分光に関しては、マイクロ波の吸収の有無を音でも確認できるように改良して大教室での演示実験が可能になった。振動スペクトルに関しては、近赤外領域の検出器の選定を行った。可視光・紫外線領域での原子や分子の分光については、現有のマルチチャンネル分光器を用いて、原子の発光や色素の吸収を演示実験の教材として提供することができた。②シャボン玉やセッケン膜の膜厚測定の教材化については、廉価版の測定装置に関する論文を発表した。③X線回折の原理を説明する教材の製作に関しては、メッシュの細かい金網や、レプリカの回折シートを回折素材にした教材を製作した。また、結晶格子の描画に関連して、エッシャー風タイリング図形の描き方に関するアイデアを思い付いた。④地域社会へ向けた自然科学の啓蒙活動については、「チルドレンズミュージアム」で幼児や小・中学生や保護者を対象に体験学習を行い、理科教育の振興を図った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分光法を用いた原子・分子の性質を解明する教材の開発においては、液体のマイクロ波分光、近赤外分光、及び紫外・可視分光について検討した。液体のマイクロ波分光に関しては、マイクロ波の吸収の有無を音でも確認できるように改良して大教室での演示実験を可能にした。また、実験内容を録画することで映像教材も作成した。振動分光に関しては、近赤外領域の検出器の選定を行った。紫外・可視領域での原子や分子の分光については、現有のマルチチャンネル分光器を用いて、水素、ヘリウム、酸素などの原子の発光や色付きセロファンや葉緑素の吸収を演示実験の教材として提供することができた。 シャボン玉やセッケン膜の膜厚測定の教材化については、シャボン玉の透過光の干渉スペクトルが廉価版の測定装置で観測できることを論文にして報告した。また、測定光源のシャボン玉の膜への影響を調べるために、水の赤外分光を行った。測定結果は、反射光の干渉スペクトルを精度良く行うためには水の吸収に対する対策が必要であることを示した。 X線回折の原理を説明する教材の製作に関しては、プリンタの印字出力の制御により微細な回折格子を描画するためのプログラムソフトについての論文を発表した。また、メッシュの細かい金網や、レプリカの回折シートを回折素材にしてアクリル板に挟むことにより、より、鮮明で、回折の仕組みを理解しやすい教材を製作して、自然科学教室で公開した。一方、パソコンで結晶格子を描画している中で、エッシャー風タイリング図形の描き方に関するアイデアを思い付いた。この描き方を小中学校の数学や美術関係の教材提案する方法についても検討中である。 地域社会へ向けた自然科学の啓蒙活動については、「チルドレンズミュージアム」で幼児や小・中学生や保護者を対象に体験学習を行い、理科教育の振興を図った。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、平成30年度までに得られた結果を基にして、次に示す内容の研究を行う。 液体のマイクロ波分光に関しては、教材として市販されている電波実験器の発振器を使って本研究と同様の実験ができるかをテストする。振動スペクトルに関しては、選定を行った近赤外領域の検出器を用いて分子の振動運動のシグナルが観測できるかどうかをテストし、結果を表示するための回路を設計する。一方、可視光・紫外領域の分光では、複数のマルチチャンネル分光器を用いた光の吸収と放出に関する教材を作成する。 シャボン玉の干渉の教材化に関して、反射光の干渉スペクトルの測定について2つのことを検討する。1つ目は、廉価版の分光器の感度が悪いために反射光の干渉スペクトルの測定ができなかったので、これを解決する新しい測定法を検討する。2つ目は、シャボン玉の膜厚測定の安定化を実現するために、シャボン玉に含まれる水による赤外線吸収の影響を最小限にするための方法を検討する。 X線回折の原理を説明する教材の製作に関しては、これまでの研究で美しい回折像が得られるようになったが、作成した教材を自然科学教室で公開して更なる改良を加える。また、次年度は、回折格子を回転させるシステムを作成することにより、結晶粉末のX線回折像を再現する教材を作成する。一方、結晶格子の描画中に思い付いたエッシャー風タイリング図形の描き方に関するアイデアについては、論文作成のための準備を進める。また、この図形の描き方を小中学校の数学や美術関係の教材として提供する方法についても検討する。 次年度に作成した教材は、地域社会へ向けた自然科学の啓蒙活動の中で公開する。具体的には、現在行っている「西新チルドレンズミュージアム」などの自然科学教室での演示実験や実習指導の中で公開し、参加者に実体験をしてもらう。これと並行して、本研究の成果を論文として発表する。
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Causes of Carryover |
X線回折の原理を説明する教材の製作にあたって、研究分担者(塩野)が使用しているパソコンの能力に限界があることがわかった。特に、プリンタの印字出力をドット単位で制御して微細な回折格子を描画したり、エッシャー風タイリング模様を描画したりするには安定に動作するパソコンが必要となる。そこで、こうした研究を円滑に遂行するために、次年度の使用額を増やして、次年度にパソコンを購入する予定である。
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