2017 Fiscal Year Research-status Report
小・中学校理科における「ものづくり」の指導方略に関する研究
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16K01006
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Research Institution | Utsunomiya University |
Principal Investigator |
人見 久城 宇都宮大学, 教育学部, 教授 (10218729)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 小学校理科 / ものづくり / 指導法 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に,日本の「ものづくり」活動に類似した学習プログラムにおける指導の特徴を分析した。事例として,アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校ローレンスホール・オブ・サイエンスにおいて研究開発された初等中等教育レベルの科学教育プログラムであるFOSS(フォス;Full Option Science System)を取り上げ,同プログラム教師用指導書を分析した。その結果,エンジニアリング・デザインの過程を学ぶためのものづくりが導入されていることが明らかになった。事例としては,第3学年の学習モジュール「運動」における車づくりがあげられる。児童には,「下り坂で速く走る車を,平坦な道でいかに減速させるか」という問題が与えられる。そして,この問題への答えを児童が考え,磁石やクリップを活用した車を設計し,製作する。これらの活動を通して,問題の把握,アイディアの提案,試作製作,改良というエンジニアリング・デザインの過程を学ぶことがねらいとなっている。このような学習が理科に導入される背景として,欧米で広がりつつあるSTEM(ステム)教育の影響があることを,FOSSプログラム教師用指導書における記述から確認した。 第二に,理科におけるものづくり活動を小学校第5学年「振り子」において想定し,案を作成した。その際,児童が振り子の周期に関して保有する科学概念の実態を把握する必要性が生じた。そこで,公立小学校第5年児童を対象に,振り子の周期に関する概念を調査するとともに,同単元の授業前後における科学概念の変容にどのような変化が生じるのかについて,授業観察を通して調査した。その結果,児童の多くは,振り子の3要素のすべてが振り子の周期に影響すると考えていることがわかった。また,複数の設問への回答結果から,児童のもつ振り子の周期に関する概念は多様であることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理科における「ものづくり」の指導方略の検討を目的として,研究の第2年次である平成29年度に次の2つの研究に取組み,それぞれの成果を論文と学会口頭発表として公表した。第一に,日本の「ものづくり」活動に類似した学習プログラムにおける指導の特徴を分析した。事例として,アメリカ・カリフォルニア大学バークレー校ローレンスホール・オブ・サイエンスにおいて研究開発された初等中等教育レベルの科学教育プログラムであるFOSS(フォス;Full Option Science System)を取り上げ,同プログラム教師用指導書を分析した。その結果,エンジニアリング・デザインの過程を学ぶためのものづくりが導入されていることや,その背景として,STEM(ステム)教育の影響があることを,FOSSプログラム教師用指導書における記述から確認した。これらの成果を,日本科学教育学会において発表した(人見,2017)。第二に,理科におけるものづくり活動事例を計画し,それに関連する基礎的研究として,振り子の周期に関する児童の概念を調査した。その結果を論文として公表した(人見・赤羽,2017)。 平成29年度に予定した研究内容については,おおむね順調に達成した。ただし,アメリカの初等中等科学教育プログラムに関する指導方略の分析が小学校段階を対象としたものにとどまっており,中学校段階についての分析に若干の遅れが出ている。このため,平成30年度は,中学校段階における分析を進めていきたい。これらを含め,当初より予定している平成30年度の研究内容として,(1)「ものづくり」の指導方略の検討,(2)実践を通した評価,等を進めていく予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度の研究内容として,(1)日本の「ものづくり」活動に類似した学習プログラムの分析,(2)「ものづくり」の指導方略の検討,(3)実践を通した評価,等を進める予定である。(1)の事例としては,平成29年度までに分析したアメリカの初等科学教育プログラム(2事例)の他にも,数事例に関する情報を入手しているので,それらを分析対象とする。(2)については,平成29年度の分析結果をふまえ,「ものづくり」の指導における改善点を検討して,適切な指導方略を策定していく。内容には,小学校理科の事例として,音,風やゴムの働き,磁石,電磁石を活用した「ものづくり」などを想定している。従来の指導方法である応用的な「ものづくり」の方向とともに,探究型「ものづくり」を指向した学習の展開例も検討したい。 本研究を進めるなかで,探究型「ものづくり」のあり方を検討する上で,エンジニアリング・デザイン(Engineering Design)からの示唆が有益であることを実感している。エンジニアリング・デザインとは,a)解決すべき問題を特定しb)可能な解決策を提案し,c)デザインを最適化する,という流れの学習活動であり(Moore et al., 2015),アメリカの理科におけるものづくりの新しい方向として導入が進んでいる。日本の理科の「ものづくり」の指導方略を検討する上で,エンジニアリング・デザインの特徴の分析は,探究型「ものづくり」の設計と実践に対して,有効な知見を提供すると考えられる。当初の研究計画を遂行するとともに,エンジニアリング・デザインに関する分析をさらに掘り下げて,本研究の充実を図りたい。
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Causes of Carryover |
アメリカの理科におけるものづくり活動の分析対象として,DASH(ダッシュ)プログラムの教師用指導書を検討したが,掲載されている内容にはやや古いものが多かったため,平成29年度内での購入を見送り,別のプログラムの購入を検討した。近年のSTEM(ステム)教育の考え方を反映したプログラムの事例として,アメリカのEngineering is Elementaryシリーズが,本研究の分析対象として適当と判断できたため,平成30年度にこのシリーズから教師用指導書を購入する予定である。また,このシリーズの授業実践を実地に調査する旅費を計上する。 繰り越した研究費(約33万円)の使途は,アメリカのEngineering is Elementaryシリーズ教師用指導書購入費;13万円,Engineering is Elementaryに関する授業調査旅費;20万円 である。
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Research Products
(2 results)