2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K01012
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
王賀 理恵 山梨大学, 医学部, 助手 (00160432)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ゲノム編集技術 / 発生工学技術 / 遺伝子破壊 / 遺伝子挿入 / 科学実験法 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、様々な生物種においてゲノムの解読が完了しているが、それらのゲノム解析から遺伝子をコードする領域は全ゲノムの数パーセント程と考えられてきており、遺伝子をコードしていないゲノムの大部分の領域の機能は未だ十分に理解されていない。これまで、ゲノムを自在に改変することは極めて難しかった訳であるが、CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)/Cas9などのゲノム編集技術の開発により、様々な生物種において簡便に標的部位におけるゲノム改変を行うことができるようになってきている。しかしながら、外来遺伝子を標的ゲノム領域にゲノム編集技術により挿入することは依然難しく、新しいゲノム編集技術の開発が望まれている。 本研究では、モデル脊椎動物であるゼブラフィッシュを用いCRISPR/Cas9を基盤とした効率的なゲノム改変技術の開発を行う。従来のguide-RNA (gRNA)とCas9ヌクレアーゼmRNAを作製するプロセスは煩雑であり、加えて、Cas9 mRNAからCas9タンパク質への翻訳に時間が必要であるため、本研究ではより迅速で効率のよいゲノム編集技術の確立を目標としている。本研究では、化学合成したCRISPR RNA (crRNA)とtrans-activating crRNA (tracrRNA)をCas9タンパク質とともに受精卵に注入する簡便な手法の開発を遂行する。さらに、ゲノム編集技術は、今後、医学や生命科学研究に活用されると考えられるので、本研究により医学部や理学部の生物学実習において、ゲノム編集技術を用いゲノムの働きや機能を調べることが可能な科学実験法を確立する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでのgRNAとCas9 mRNAを用いたゲノム編集技術ではなく、本研究では、化学合成したcrRNAとtracrRNAをCas9タンパク質とともにゼブラフィッシュ受精卵に注入する手法を開発した。この手法は、非常に簡便であり受精卵にゲノム編集ツールをインジェクションした後に素早くゲノム改変が進行するためゲノム編集効率が極めて高い。本研究で、効率的にゲノム改変を誘導できるゲノム編集技術を確立できたので、この技術を用い未解析遺伝子の機能解析に応用できないかを検討した。 ゼブラフィッシュのゲノム解析情報とRNAシークエンス解析情報を基に、これまでは遺伝子として登録されていない低分子量タンパク質をコードしうる未解析のゲノム配列がデータベースの中に存在する。そこで、それら未解析の候補遺伝子のクローニングを行い、ゼブラフィッシュ初期発生における発現パターンを解析した。 cart-like遺伝子は、哺乳類のCART(cocaine- and amphetamine-regulated transcript)遺伝子(コカイン-アンフェタミン調節転写産物)に相同性を示す新規の遺伝子であると考えられた。哺乳類では、CART遺伝子が視床下部球状核に局在することが知られている。ラットのCARTを脳室投与すると摂食を抑制することから、食欲調節に重要な役割を担うと考えられている。ゼブラフィッシュの初期発生過程では、cart-like遺伝子の発現は、三叉神経節とRohon-Beard neuronに特異的に認められたので、本研究で開発したゲノム改変技術を用いcart-like遺伝子の機能を明らかにできるのではないかと考えられた。現在、crRNAの選定が終わっているので、ゲノム改変を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究によりcrRNAとtracrRNAをCas9タンパク質と一緒にゼブラフィッシュ受精卵にインジェクションする効率的なゲノム改変技術が確立できたので、未解析の低分子量タンパク質に対する遺伝子の機能解析に応用する。これまでに、新規遺伝子であるcart-like遺伝子に加え、slurp-like1遺伝子のクローニングにも成功している。この遺伝子は、哺乳類のSLURP1遺伝子に相同性が認められている。興味深いことに、SLURP1遺伝子はヒト遺伝性皮膚疾患の原因遺伝子であることが報告されており、皮膚の恒常性の維持に重要な機能を持つと考えられている。今後、ゼブラフィッシュの初期発生過程におけるslurp-like1の発現動態を調べるとともに本研究で確立したゲノム編集技術を用い、slurp-like1の遺伝子機能の解析を行うことを計画している。 cart-like遺伝子は、ゼブラフィッシュの神経発生過程において、三叉神経節とRohon-Beard neuronといった特異的な部位に発現が観察されている。高いゲノム編集活性を示すcrRNAは得られているので、ゲノム編集技術を用いcart-like遺伝子の発現動態や機能欠損の表現型解析が可能な系統の樹立を試みる。上記の未解析候補遺伝子の機能解析の結果をまとめることで、学術論文として発表することを計画している。 所属研究室は、ゲノム変異を簡便に同定する手法の確立にも成功している。本研究で確立した効率的なゲノム改変技術を行ったゼブラフィッシュ胚のゲノムを用いゲノム編集効率を測定する生物学実習を行う予定である。
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Causes of Carryover |
[理由] 平成29年度は実験魚の飼育管理のための人件費の一部が当初予算より少額に抑えられたことと、平成30年度中に論文投稿やリバイスのための実験に要する経費の増加が想定されたので、論文投稿関連費用に充てるため、次年度使用額が生じた。 [使用計画] 研究成果の論文投稿やリバイス実験に要する経費に使用する。
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Research Products
(1 results)