2016 Fiscal Year Research-status Report
疑似科学信念を活用した二重過程理論にもとづく批判的思考教育の開発
Project/Area Number |
16K01013
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
菊池 聡 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (30262679)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 疑似科学信念 / 二重過程モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
疑似科学信念の心理的基盤を「認知の二重過程モデル」からとらえ直すという研究の全体目的のもと、疑似科学信念と関連諸指標について、青少年を対象に2回の調査を実施した。これらの調査では「疑似科学信念」に加えて、「合理的直観的思考」「科学に対する態度」「疑似科学以外の超常信念」などの個人差と、人口統計変数を測定し、相互の関連性と発達的変化について当初計画に沿って分析を行った。 第1調査では、受験教育関連企業の通信教育を受講する全国中高生を対象とし、疑似科学と科学への態度を問うweb調査を実施し、758名の回答を得た。分析の結果、疑似科学信念について、直観にもとづいて形作られ、教育によって低減される従来型の誤信念としての疑似科学と、ある程度の合理的信念や懐疑的姿勢にもとづいて形作られ、成長や教育によって低減されにくい強固な疑似科学信念の2因子を見いだすことができた。これらの疑似科学は迷信やスピリチュアリティなどの超常信念と強い相関もあったが、認知の二重過程モデルと対応して解釈できることが示された。 第2調査では、信奉の発達的変化を明らかにするために、県内中高一貫校の協力を得て、6学年461名を対象に疑似科学信念の縦断的質問紙調査を行った。その結果、第1調査と対応した知見が確認され、翌年度の論理的思考力測定の結果とあわせて総合的な分析を行う予定である。 なお本年度の研究結果は論文にまとめて「菊池 聡(2017).中学高校生の疑似科学信奉と科学への態度の関連性 信州大学人文科学論集, 4, 11-24.」にて報告し、その一部は日本科学哲学会第49回大会(2016年11月19日、信州大学)においても発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、平成28年度には疑似科学信念および関連する諸変数について、青少年を対象として広範囲な調査を実施し、収集されたデータの分析を行って、二重過程モデルが想定する直観性と合理性が、認知バイアスの影響下で、それぞれ疑似科学・超常現象の肯定や、逆に否定にもつながりうるという仮説を検討することを目的とした。この調査実施では、当初予定していなかった教育企業の協力を得ることができ、その結果、全国の幅広い中高生のサンプルに対して十分な項目数を用いた大規模なweb調査を行うことができた。分析結果もおおよそ仮説を裏付けるだけでなく、新たな仮説への示唆や、不十分な項目の発見・改良など、次年度以降の研究に資する知見を得ることができた。また続けて行った質問紙調査では、中高一貫校の全学年生徒を対象とすることで、同一の環境下での発達的変化を横断的にとらえる調査を実施できた。こうした研究成果の公表についても、本年度の学会で発表するだけでなく、論文としてまとめて報告することができた。しかしながら、当初予定していた大学生への調査や、テスト課題の検討については必ずしも十分な進展をみることができなかった。以上の点から、現在までの進捗状況は、当初計画に沿っておおむね順調に推移しているものといえる。
|
Strategy for Future Research Activity |
当面、平成28年度の調査結果をもとに、そこで得られた知見を確認し、また不十分な測定にとどまっていた概念の精緻化や、項目改良による妥当性の向上などの方法論的な改良を行った調査研究を再度実施する。前年度に加えて、大学生も調査対象に加えることで、さらに広範囲な発達的変化や科学的知識との関連も検証対象とする予定である。特に、これまでの調査において、合理的直観的思考傾向は、被調査者の自己報告による評定値として測定していたが、質問紙調査の枠組の中で、合理的・論理的思考の能力自体を測定できる課題やテストを併用することで、前年度の知見をさらに拡充する方針で29年度の研究を進める。その上で、当初計画にあるように、情報処理バイアスを直接測定する実験心理学的手法を検討し、質問紙法の知見を相互に補完する形での総合的な仮説検証に進めていく予定である。
|
Causes of Carryover |
執行計画に沿って予算執行を行ったが、一部の出張をとりやめ、また購入物品が予定より安価であったため誤差が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の物品購入予算に加算して執行する予定である。
|