2017 Fiscal Year Research-status Report
疑似科学信念を活用した二重過程理論にもとづく批判的思考教育の開発
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16K01013
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
菊池 聡 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (30262679)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 疑似科学 / 批判的思考 |
Outline of Annual Research Achievements |
疑似科学信念が持つ特徴的な心理的構造を「認知の二重過程理論」からとらえ直し、批判的思考教育の方法に寄与する知見を得るという全体目的にもとづいて研究を実施した。まず平成28年度に行った中高生調査データを多面的に分析し、その結果にもとづいた調査項目の精緻化を行った。これらをもとに、二重過程モデルをパーソナリティ理論に発展させたCEST(Cognitive Experiential Self Theory)にもとづく情報処理スタイル尺度を中心に2回の調査研究を行い、仮説にもとづいた分析と検討を行った。第1調査では大学生277名を対象として、継続的に疑似科学信念や超常信奉、批判的思考態度、情報処理スタイルなどの尺度調査を半期にわたって継続的に行い、当初計画に沿って分析を行った。また、第2調査では、小中高の学校教員92名にも疑似科学信念関連変数の調査を行った。これらの調査結果および前年度の中高生調査結果から、疑似科学信念は、二重過程の直観的段階で促進され合理的段階で抑制されるという従来のモデルによる説明だけではなく、一部の信念や態度では逆に合理的思考によって促進される可能性が示唆された。この結果は疑似科学信念や超常信奉に関する従来の欠如モデルの修正が必要なことを意味するものと解釈された。これらの疑似科学信念に関して得られた知見の一部は、 日本心理学会(監修)楠見孝(編)(2018)「心理学って何だろうか」誠心書房,の中で解説した。また、中高生を対象として行った調査では、英語版論理的思考力テストの基準関連妥当性を検討し、これを日本英語学会第35回大会ワークショップ(東北大学,2017年11月18日)にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画において平成29年度までに進める予定であった調査研究・実験的研究・成果公表のそれぞれは、一部で停滞はあるもののおおよそ順調に進展させることができた。調査研究においては、前年度に行った中高生を対象とした調査データと分析結果をもとにして、大学生や学校教員など広範囲な年齢層の対象者に対して、二重過程モデルが想定する諸指標と疑似科学や超常現象への態度との関連をとらえる調査を実施し、有効なデータを得た。また、実験的検討においては、ヒューリスティックの抑制を反映する認知的熟考課題を用いた集団実験を大学生の調査に組み込むことで一定のデータを得ることができたが、当初計画していた認知的課題を用いた実験室実験は予備的な試行にとどまった。これら一連の研究成果の公表については、二重過程モデルの観点から今後の研究の基盤になりうる論理的思考力測定テストの妥当性を検証し、その成果を英語学会にて報告した。また一連の研究から得られた疑似科学的思考の特徴に関する知見を、心理学叢書(楠見孝(編)、日本心理学会(監修)に盛り込んで一般向けに公表できた。以上の点から、現在までの進捗状況は、当初計画に沿っておおむね順調に推移しているものといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度の平成30年度には、これまでの年度の調査研究で得られた知見とデータをさらに分析するとともに、項目の改良による妥当性の向上などの方法論的な修正を行った調査を、中学生から社会人を対象として実施する。あわせて情報処理バイアスを直接測定する実験心理学的手法を補足的に用いていくこととする。それらを通して得られた疑似科学と論理的思考に関する概念的問題を整理し、先行研究で主流になっている欠損モデルを枠組とした疑似科学信念の理解だけでなく、多視点的な疑似科学のとらえ直しがどのように可能なのか検討を進める。あわせて、批判的思考教育に応用可能な教材モジュールの試作を行うとともに、これら一連の研究知見については、平成30年度の日本心理学会、日本教育心理学会などで報告する。また、疑似科学に関する総合的な知見を、一般向けにも広く公表する書籍としてまとめていきたい。
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Causes of Carryover |
学会での発表にかかわる旅費が予定よりも少額でおさまったため。次年度の旅費に算入して使用する予定である。
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