2017 Fiscal Year Research-status Report
専門家による知の伝達ー双方向的な解説手法の確立と検証
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16K01024
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Research Institution | Sapporo City University |
Principal Investigator |
町田 佳世子 札幌市立大学, デザイン学部, 教授 (40337051)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
河村 奈美子 (大西) 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (50344560)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 専門家 / 博物館 / 連想法 / 認識変化 / 意識変化 / 高揚感 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、博物館諸施設の専門家が地域の小学校へ出向いて行う授業(以下出前授業)を調査対象とし、どのような知が伝えられ受けとめられたか、またどのような展開のとき知の形成が生じるかを明らかにすることを試みた。専門家が行う出前授業の内容については、多くの実践報告を見ても、質の高いものが提供されていることは間違いない。しかしその授業により学習者の認識や意識がどのように変化したかを評価する方法については、自由記述など質的なデータの場合が多く、分析・評価方法の客観性、妥当性に検討の余地が残されている。そこで今年度は、単一自由連想法(糸山2011)という手法を用いて得られた質的データを量的に評価すること、そして自由記述を併用することで、量的、質的側面から出前授業前後の学習者の認識変化を捉えることを試みた。単一自由連想法は、被験者が連想反応によって想起する反応語が被験者がもつ認識、知識、イメージの表出であると考え(糸山2011)、その変化を見ることにより認識の変化を測ることを目的とする手法である。また認識変化を引き起こす解説の仕方を抽出する目的で、同一出前授業を複数回見学し、当該授業の展開を確認した上で、授業のどの部分で受講者は高揚感を感じるかを3段階尺度で調べ、高揚感の度合いと連想法の反応語の変化との関連をみた。 小学校1校の協力を得て77名の児童から得られた反応語(授業前405、授業後519)の授業前後の変化を反応語数、反応語種数、連想エントロピーを計算して調べた結果、反応語数はさほど変わらなくとも連想エントロピーの増加が見られ、授業後は授業のテーマに関連した認識の広がりを確認することができた。また授業後の反応語と自由記述の内容を授業場面の展開に応じて分類することで認識の質的な変化を把握し、連想法では反応語として表れない認識の変化が自由記述の方法では表現されることも見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
出前授業を調査対象としているため、調査時期が、出前授業が実施される時期や調査受入の学校の影響をうけ、平成29年度下半期での調査実施となった。そのため成果発表に間に合わせることができず、研究成果の公表は報告書の作成のみとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度でのインタビュー調査、平成29年度の出前授業前後の受講者の認識変化調査成果から、教育者ではない、他分野の専門家が自らの領域の知を一般の人々に伝えることを成功させるためには、何を伝えたいのか、どこまで伝えたいのか、言い換えれば何を目的として知の伝達を行うのかを専門家自身が明確に把握していることが絶対的な条件であることを確認できた。また内容を限定すべきことがわかってはいても、伝えたいという強い思いが内容の絞り込みを躊躇させることも浮かび上がってきた。 そこで、次年度においては、専門家が、解説・授業・科学コミュニケーションの内容設定の際に、その目的や内容を限定していくプロセスを把握することと、授業の展開の中で受講者が高揚感を感じる場面をどのように創出していくかについて、聞き取り、授業観察を行い、授業・解説の成果については平成29年度を参考にして質問紙調査を行いながら、双方向的な知の伝達過程を明らかにしていきたい。
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Causes of Carryover |
調査対象の地域が、当初の予定より近郊の都市となったため、旅費が少ない金額となった。購入を予定していた質的データ分析のソフトではなく、無料で入手できるソフトを試行したため、物品費が抑制された。データ入力協力謝金を予定していたが、分析のための入力方法が複雑であったため研究者自身により入力したことから支出が抑えられた。これらの要因が累積し、全体として平成29年度の支出が予定より少なかったが、平成30年度は、調査地域訪問、成果発表のための旅費に加え、収集する質的データ分析に最適な質的分析のソフト購入、研究成果の投稿論文の英文校閲等に使用する計画である。
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