2017 Fiscal Year Research-status Report
初中等教育現場で実践可能な海産無脊椎動物を用いた実験教材の開発と普及
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16K01046
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Research Institution | Tokyo National College of Technology |
Principal Investigator |
伊藤 篤子 東京工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (40433734)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 教材開発 / 発生観察実験 / 血球観察実験 / 筋収縮実験 / 海産無脊椎動物 / 教員研修 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,海産無脊椎動物を用いた観察・実験を初中等教育現場に最適化した形で提供し,それらを普及することで児童・生徒の学習の定着を図ることを目的としている.複数の実験を構築するにあたり,1. 授業への最適化,2. 実施資料の作成,3. 実験実施と効果の調査,4. 改善,5. 実施,6. 普及の6段階で研究を推進した. 「カキを用いた受精~卵割の観察」および「アカガイ体液を用いた血球観察」の両実験は,昨年度,段階5「実施」に到達し,今年度は「普及」段階へ入った.小学生対象「夏休みこどもいちょう塾」,中学生対象「東京高専サマーサイエンススクール」,高専2年生への授業内実践によって児童生徒への普及をはかった.いずれの実践においても児童・生徒にとって低難易度で興味を喚起する良好な結果が得られた.なかでも小学生に対する実験の興味喚起の効果が最も高かった. より広く普及するために教員に対して「八王子市小学校教員研修」および2つの教育学会で発表をした.教員研修において,教員個人からはいずれの実験も高い興味喚起効果と簡単な手技で良好な結果を得られた.しかし,持ち帰っての実験実践に対しては,教員個人の手技への未熟さ,各校における設備面およびカリキュラムの面から積極的な導入にむけた反応は得られなかった.研修参加教員は教員歴平均2.8年の教員16名,化学専修が1名で残りは文系出身であった.平成29年3月公示新学習指導要領では,小中学校ともに「第1目標」で観察,実験の技能習得とこれを通じた科学的探究力,問題解決力を養うことが明言された.小中学校では平成30年度より移期間に既に入っている.新学習指導要領に対応するためには,本研究実践時のような教員の出身背景に関わらず,教員自身が積極的に実験・観察に臨み,技能向上できる環境を近喫に整える必要がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は,海産無脊椎動物を用いて5つの実験を,以下の6段階を経て構築していくことで,研究の推進度を計っている. 1. 授業への最適化,2. 実施資料の作成,3. 実験実施と効果の調査,4. 改善,5. 実施,6. 普及 「カキを用いた受精~卵割の観察」および「アカガイ体液を用いた血球観察」の両実験は昨年度中に段階5まで終了し,普及の段階6を残すのみとなっていた.本年度は普及として教員,学生,生徒,児童すべてに対して実践を行うことができた.また,普及活動を通じて,理科専修以外の教員の実験・観察に対する難易度の高さが当初の想定より高いことが明確となり,これを解決する必要が生じてきた. 「貝柱を用いた筋収縮観察実験」は新たに実験条件を検討した.小売店で入手が容易な二枚貝類は多くあるが,サンプルの調整の容易さや筋収縮率には種によって差があることが明らかとなった.4種類の貝を調べ(ホタテ,アカガイ,ホンビノス,ホッキガイ),入手の容易さと収縮率の高さではホタテ,収縮率の安定性ではアカガイが適していた.以上の結果より,段階1「授業への最適化」が終了したと考える.このことを日本動物学会関東支部会で発表した. 「アルテミア初期発生実験」の実験授業への最適化はほとんど進展しないままである.しかし,当初予定していた実験5つのうち4つが実験授業として構築できたこと,普及も進んでいること,そして本研究からさらに発展する可能性のある課題が得られたことから,全体としての進捗はおおむね順調と考える.
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Strategy for Future Research Activity |
29年度までと同様に,教員研修,各学会,科学教室,授業実践によって普及につとめる.同時に,理科専修以外の教員に対して,授業で実験・観察の実施を促すためのプログラムの構築と,そのプログラム構築のための調査をすすめる.本研究で構築した実験授業を単独で研修などで実践するだけでは教員の実験・観察の資質向上には求心力が強くない.身近な生物を様々な学習単元から総合的・長期的に取り扱う新たな実験プログラムの開発を行う.例えば,マガキは筋収縮実験,心拍の観察実験,初期発生実験に用いることができ,また,環境において海中のフィルターフィーダーとして海洋環境の維持に寄与している.ミクロからマクロへ,また複数の季節にわたって長期に実験・観察に利用できる.学習単元に対応させ,長期にわたって一つの生物を取り扱うことで教員が生物の取扱いになれることができるとともに,児童・生徒の生物に対する畏敬の念を喚起できると考える. 加えて,教員の経験年数に応じて理科教育に対する教員研修を導入していけば効率よく実験・観察技能を獲得できるのか,近隣の教育委員会に協力を要請し,現場教員の要望の調査を行う.必要な場合は実験材料をキット化して配布するなどし,同時に授業への導入に対して,導入校の設備,状況に応じて最適化することで普及への推進力としたい.
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