2017 Fiscal Year Research-status Report
プログラミングにおけるコードリーディング学習環境の構築とその効果の実践的調査
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16K01084
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Research Institution | Tokoha University |
Principal Investigator |
山下 浩一 常葉大学, 経営学部, 准教授 (30340110)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小西 達裕 静岡大学, 情報学部, 教授 (30234800)
小暮 悟 静岡大学, 情報学部, 准教授 (40359758)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 学習支援システム / コードリーディング学習 / プログラミング教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
[29-1] 前年度に引き続き,本研究のコードリーディング支援システム(LEPA)が視覚化する三つの領域のうち,プログラムの処理対象となる論理的データ構造の領域(対象世界)に着目した。これまでの授業実践から,対象世界の観察を通じて得られる知見が不十分な学習者が少なくないことが分かっている。こうした学習者はLEPAのストア機能を利用せず,コードブロックの実行前後の対象世界の変化を観察していない。本研究では教師が見比べるべき場面をあらかじめ指定して学習者に与えることのできるシステムを構築し,システムの学習効果を評価した(雑誌論文1: ICCE2017)。 [29-2] また,対象世界の表現範囲を広げることを試みた。プログラミング初学者が理解に躓く代表的な学習対象に再帰的な関数の利用がある。LEPAに含まれるプログラム実行過程の解析器はこれまで再帰関数には対応していなかったため,本研究では解析器を再帰関数に対応できるよう拡張した。また,対象世界の描画方法について検討し,再帰関数の理解を支援する学習支援システムを構築した。小規模な評価実験を通じて,システムの学習効果を評価した(雑誌論文2: ICCE2017)。 [29-3] 本研究ではコードリーディング学習とコーディング能力との相関関係についても評価・考察の対象としているため,プログラミング演習中に学習者のプログラムを自動収集するシステムを構築した。システムを試験運用する中で,収集したプログラムを分析することでコーディング時の学習者の躓きが自動的に検出できる可能性に着目した。検出した躓きを時系列に整理して学習者に見せることで,学習者の振り返り学習を支援するシステムを構築し,評価実験を行った(雑誌論文3: ICCE2017)。 [29-4] このほか,本研究で28年度の成果を取りまとめて論文化した(雑誌論文4: RPTEL)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の三つの研究成果(29-1,29-2,29-3)は,コンピュータ利用教育に関する歴史ある大規模な国際会議であるInternational Conference on Computers in Education 2017 (ICCE2017)に採択されており,国際的に高い評価を受けているといえる。 しかし,これらの研究成果がコードリーディング学習に関する研究の遂行に寄与する範囲は限定的である。三つの研究成果のうち二つは,LEPAを用いたコードリーディング学習が円滑にできなかったことを発端とした見比べ機能の改善(29-1)と,対応可能なプログラムの拡大(29-2)によるものであり,コードリーディング学習による学習成果の評価の段階にまでは至っていない。研究成果(29-3)も同様に,評価の段階で利用可能なプログラム自動収集システムを起点とした成果であり,実際の評価方法の検討にまでは至っていない。これらのシステムはすべてコードリーディング学習に関する学習教育環境全体のうちの一部を担うサブシステムであるが,これらを統合したシステム全体の構築までには到達できなかった。 当初の計画では29年度までの授業実践から得られた知見に基づいて,30年度にはコードリーディング学習を実授業に導入することになっている。しかし,現段階では学習教育環境全体を扱う統合システムの構築ができておらず,授業投入に遅れが生じている。 以上のように,高い評価の得られた成果がある一方で研究の当初計画の全体的な観点からは遅れが生じていることから,本研究課題の進捗状況はやや遅れていると自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度の研究成果および29年度の研究成果をLEPAに盛り込み,実授業に投入可能なコードリーディング支援システムの構築を目指す。研究成果(29-1)を盛り込むことによって,学習者が対照世界を見比べるべき場面を教師が指定することが可能となり,教師がコードリーディングの手がかりを与えることが可能となる。LEPAへの統合ができておらず,コードリーディング学習による学習成果の評価ができていないため,統合作業を推進する。研究成果(29-2)は,LEPAに盛り込むことによって再帰関数を含むプログラムを対象としたコードリーディング学習が可能となる。これについても同様にLEPAへの統合ができておらず,コードリーディング学習の成果は評価できていないため,システムの統合を進める。研究成果(29-3)は,学習者プログラムを自動的に収集するサブシステムを元にしている。コードリーディング学習には直接的な関係を持たないが,コーディング能力の評価の際には学習者プログラムの自動収集が必要となる。LEPAにこれを統合した教育支援システムを構築することによって,実授業にコードリーディング学習を導入する際のさまざまな障壁が軽減することが見込まれる。 統合システムの構築作業に遅れが出る場合に備えて,LEPAを利用した学習者のコードリーディング学習の観察・記録を継続する。28年度の研究成果からは,学習者のコードリーディング能力と操作系列のグループ構造の精密さの間の大まかな相関しか観測できていない。今年度も継続してグループ構造の正確さや詳細さを数値化する方法の構築を目指し,統計的手法が適用できるような分析方法を検討していく。また,当初計画では50名規模の実授業にコードリーディング支援システムを導入することを予定しているが,やや遅れている現状を鑑みて,より規模の小さい授業への導入も検討する。
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Causes of Carryover |
当初計画では,研究代表者および分担者が成果発表や調査のために学会参加するための旅費を計上していたが,研究以外の業務とのスケジュール調整が不調のために参加を見送ったケースがあり,支出額に残額が生じた。また,想定よりも消耗品の消費量が少なかったことや,調査文献の選定が間に合わずに書籍の購入が不十分であったことも残額の計上に影響している。 30年度は本研究の最終年度にあたるため,消費する消耗品の量が増加することが予想される。研究データのバックアップ計画も検討し,次年度使用額は主に研究データのバックアップメディアや研究成果の印刷用消耗品の購入にあてる。また,研究以外の業務スケジュールを調整して学会での成果発表を行う。
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