2018 Fiscal Year Research-status Report
最新の意思決定理論に立脚した教師の授業における即時的意思決定に関する研究
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16K01109
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
徳岡 慶一 京都教育大学, 教育学部, 教授 (60207545)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 意思決定 / 他者理解 / 2重過程理論 / 再認主導意思決定モデル / 臨床推論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、最新の意思決定理論を用いて授業実施時における教師の即時的意思決定について詳細に検討することである。この目的を達成するために、平成30年度は、意思決定を行う際に、(1)教師はどのように学習者を理解しているのか、(2)最新の意思決定モデルである再認主導意思決定モデルと臨床推論モデルの2つについて、文献研究を行った。 前年度に引き続き、2重過程理論を援用して、授業における教師の即時的意思決定における他者理解についてより詳細に検討した。その結果、知覚に異常なく授業がスムーズに行われている時は、直接知覚による児童・生徒理解(システム1を使用)している。そして知覚に違和感、つまり何かおかしいと感じた時は慎重に推論して児童・生徒理解を行っている(システム2を使用している)、つまり知覚に違和感が生じることがシステム2を発動するトリガー(きっかけ)になっていると考えた。 次に、最新の意思決定モデルである再認主導意思決定モデルと臨床推論モデルについて検討した。いずれのモデルにおいても熟練者が意思決定する際, 熟練者はさまざまな代替案の間の評価を並列的に行っているわけではなく, そして認知的負荷をできるだけ少なくするために直観を有効活用している点がその主要な特徴であることが分かった。 以上の研究成果は、日本教育方法学会第54回大会(和歌山大学)と日本教育工学会研究会(福井大学)で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
28年度は文献研究によって、(1)教師の即時的意思決定研究における教師の推論様式に関する研究はほとんどないこと、(2)「限定された合理性」の制約により規範的な意思決定を行えないことが分かった。次に熟練教師(1名)を対象に行った調査結果から、(1)教師の推論は事象から原因を時間的に遡って解釈する方向で行われ、(2)時間的、認知的制約のため1度に1つの推論しか行われない、(3)推論の様式はパースが提唱したabductionであることが分かった。以上の研究成果は、日本教育工学会研究会と全国大会で発表し、大学紀要に掲載した。 29年度は、熟練教師が即時的意思決定を行う際の他者理解を検討した。先行研究によれば、児童・生徒の内面は発言や行為を通して間接的に知る理論説やシミュレーション説と、直接的に知ることができるという直接知覚説に2分されている。そこで2つの考え方を統合するために2重過程理論を援用して検討した。知覚に異常なく授業が行われている時は直接知覚による他者理解が、知覚に違和感を感じた時はその理由を慎重に推論して意思決定を行っていると考えたのである。以上の研究成果は、日本教育方法学会第53回大会(千葉大学)で発表した。 30年度は、前年度に引き続き2重過程理論を援用して教師の即時的意思決定における他者理解をより詳細に検討した。次に最新の意思決定モデルである再認主導意思決定モデルと臨床推論モデルを検討した。両モデルとも熟練者の意思決定の特徴として, 認知的負荷を少なくするために直観を有効活用していることが分かった。以上の研究成果は、日本教育方法学会第54回大会(和歌山大学)と日本教育工学会研究会(福井大学)で発表した。 なお他者理解は哲学における難題の一つと言われているテーマであり、かつ近年新しい成果が次々と産出されており、その検討に予定より大幅に時間を要したため予定が遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」に記載したとおり、当初の予定より進捗がやや遅れている。そこで当初の予定を変更する。具体的には、令和元年度は授業における即時的意思決定のモデル開発に代わり、その1つ手前のプロトタイプを考案することに変更する。そこで令和元年度は、以下のことを行う。 (1)文献研究を継続する。特に平成30年度の研究において熟練者が意思決定において使用していると思われる直観を把握する手法に関係する資料を購入する。入手した資料を分析し、授業実施時における教師の即時的意思決定に関する概念の解明をより一層深める。加えて学会に参加し研究成果を発表すると共に、最新の研究動向を把握する(2泊3日1回を予定)。 (2)(1)の成果を用いて熟練教師(1名)と中堅教師(1名)を対象に意思決定を行う際に直観をどのように利用しているのかを具体的に把握し、授業における即時的意思決定のプロトタイプを考案する。 (3)研究成果は、日本教育工学会で発表すると共に、同学会の紀要に投稿する。 研究期間終了後も研究を継続して当初の予定を完遂したい。
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Causes of Carryover |
洋書の購入において為替レートの変動の影響で残が生じた。請求した助成金と合わせて次年度に使用する計画である。
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