2016 Fiscal Year Research-status Report
プログラム読解学習のための学習教材の自動生成方式と学習者の技能定量化手法の提案
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16K01147
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Research Institution | Hiroshima Institute of Technology |
Principal Investigator |
松本 慎平 広島工業大学, 情報学部, 准教授 (30455183)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
加島 智子 近畿大学, 工学部, 講師 (30581219)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | プログラミング / マルコフモデル / 読解 / 視線運動 / プログラムスライシング / データ依存関係 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの研究により,プログラミング読解過程の眼球運動に基づく分析が進められている.プログラミング読解の様子を眼球運動から調査する研究は既に報告されているが,プログラミングを不得意とする学習者層を対象として,成熟的に学習を進めるための学習支援法・教授法を構築する目的で眼球運動を動員した研究は,申請者らの調査の限りでは確認されていない.先行研究により,「代入と順次実行」の基礎的技能に限り申請者らの成果の有効性が確認されたが,眼球運動の履歴は定性的な観点でのみ解釈された分析結果であるため,学習者の更なる支援の実現に向けては,眼球運動の履歴を定量的に評価するための手法構築が望まれている.以上背景のもとで,本年度においては,プログラミング読解過程中の視線運動を解析し量的に評価する手法として,マルコフモデルに着目した.具体的には,ただ一つの状態によって決定される単純マルコフ過程と直前2つの状態によって決定される2重マルコフ過程を用いた.ソースコード内で処理が記述されている箇所を状態と見なし,また,箇所間の遷移をエッジと見立てることで,状態遷移モデルを構築し,学習者の思考モデルと見なした.本研究で対象としているものは,ソースコード内の行間の推移のみであり,視線運動として観測される出力記号列と,内的な認知過程との間に隠れた状態があることを重視する必要がない.よって本研究では,HMMではなく,単純なモデルを採用した.また,視線運動の中でも,ある行から別の行への注目箇所の推移についてのみに注目するため,同じ状態への推移は考えないものとした.その結果,提案手法は読解の仕方などといった学習者の特徴に強く左右されずに視線運動を評価できることを示すと共に,プログラムソースの内的構造の影響が視線に表出していることを明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の最終目的は,1.データ依存関係,制御依存関係といったプログラム構造の観点から,プログラムの知識・技能とプログラム構造とを対応付けるフレームワークを提案し,2.プログラムを特徴付ける各パラメータに基づきプログラム読解学習教材としてのソースコードを自動生成する機能を実装し, 3.プログラミング読解過程中の眼球運動を取得し,視線の推移を隠れマルコフモデルを中心とした確率モデルで記述するための手法を提案し,4.確率モデルとプログラム構造との構成的差違を定量的に評価し,知識・技能の習得度を定義するための手法を提案し,5.知識・技能の程度に応じたプログラム読解学習教材を提示可能な学習者適応の学習支援システムを開発することである. まず,自学学習環境として利用可能なプログラミング読解学習支援システムを開発した.読解学習支援システムは従来から開発を進めてきたものであるが,2016年度の取り組みにより,データ依存関係,制御依存関係といったパラメータをシステムに与えて読解教材を自動的に生成するためのインタフェースを設計することができた.そして,これを実際の講義に適用することで,学習者ログの収集を行うことができた. また,同一の教材を対象として,プログラム読解過程中の視線運動の追跡を行った.2016年度の研究では,代入文のみで構成される3行のプログラムで生成可能な4パターンのデータ依存関係を実験課題とし,被験者データを取得し分析を行った.その結果,各パターンのデータ依存関係の影響を評価モデルから確認することができた. 2016年度の取り組みにより,実験対象となるソースコード自動生成システムの開発,実環境で利用可能な読解学習支援システム,視線データの量的評価手法の構築が達成された.以上のことから,おおむね順調に進展していると評価する.
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Strategy for Future Research Activity |
2016年度の取り組みにより,3行のソースコードで構築可能な4パターンのデータ依存関係のソースコードを実験課題として分析を行い,結果,データ依存関係の影響が視線に表れその程度を量的に評価可能であることを明らかにした.先行研究で報告されてきたソースコード理解過程中での視線の動きをソースコードの構造の観点から説明できることを示した.学習者はソースコード読解中に無意識にスライシングを行っており,それにより内容理解に対する認知負荷の軽減を試みているものであると考えられる.そこで,2017年度においては,認知負荷の観点から,視線データの分析と評価を行う予定である.認知負荷が掛かっていなければうまくスライシングができているということであり,それはすなわち,よりデータ依存関係に沿った形で視線が推移していることと考えられる.認知負荷については,人間自身が評価可能であるといった知見に基づいて,アンケート評価で十分であると考えている.なお,視線運動の量的解析手法として,2017年度においては単純マルコフモデルを採用したが,隠れマルコフモデル,多重マルコフモデルの適用も検討すべき課題であると考えている.本研究で対象とした読解課題は単純なものであるが,規模を大きくし複雑化させることで,従来の方法論だけでは明らかにすることが困難であった暗黙的な思考過程の解明に貢献可能であると考えられる.そこで,次年度においては,ソースコードの規模を大きくした場合の分析結果について調査する必要がある.また,読解者の技能の差の影響を除き,ソースコード読解とプログラム構造との関係性を明らかにしたと考えているが,真の意味で技量の差が取り除かれているのかどうかについても,引き続き詳細な分析が必要であると考えているため,次年度の課題とする.
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Causes of Carryover |
本年度,国際会議(IMECS 2017,香港)に研究代表者は参加予定であったが,学内業務の関係で参加できなくなったため,論文投稿を見送ることになった.その結果として,旅費,学会参加費を不使用となり,次年度使用額として残額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用計画として,国際会議(IMECS 2018,香港か,あるいはACIS 2017,カンボジア)に追加で参加することを検討し,旅費と学会参加費に充てる予定である.また,論文投稿を既に1件進めており,論文投稿料としても使用する計画を立てている.加えて,実講義での適用実験のために,残額を利用して複数の機材を購入することや,講義補佐のアルバイト代として使用することを検討する.
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