2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K01160
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
平田 光司 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 特別教授 (90173236)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高岩 義信 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 助手 (10206708)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 民主主義 / 研究者集団 / 科学の社会史 / 高エネルギー物理学 / 巨大科学 / 共同利用研究所 / 合意形成 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度に「発見」した複数の民主主義の相克の具体例として、東京大学原子核研究所(核研)の事例について高エネルギー加速器研究機構に保管されている資料(核研関係および学術会議関係)を調査した。大学の自治と研究者の自治の矛盾が現れた問題としては東大学長の辞任にともなう核研所長の辞任問題があったことがわかった。もっとも、大学附置共同利用研の問題点は1960年ころにはすでに強く意識されており、学術会議の原子核将来計画における研究所の体制問題の中心にこの相克への問題意識があることがほぼ判明した。その問題は認識されてはいたが、解決法のないまま先延ばしにされていた。
素粒子研究所は原子力の導入で起きたような「政府の介入」を避けるべく、研究所としての自治(学問の自由の保証)を必要不可欠なものとして追求した。大学の附置研となることで大学の自治を利用することはできたが、共同利用は大学の自治と相容れない。そこで(国立)大学連合などの新構想が浮かんでくるが、それを可能とするための制度的問題も生じた。(大学の自治に手を入れることで、自治そのものを危うくする可能性もあった、など。)この問題に関する議論の記録を精査することで、当時の学問観、大学観をさぐることができると考えている。そのための資料整理を主に行った。
同時に、素粒子研究所のための加速器の機種変更についても検討を進め、加速器計画の進展である機種変更が、その技術的問題にとどまらず、原子核特別委員会の役割変更、軽視へとつながる過程を跡付けることができた。この問題も研究者の自治をどの範囲で考えるか、に関わる本研究課題の中心的テーマであり、引き続き資料を精査している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究当初には想定していなかった「複数の民主主義の相克」という観点を取り入れた研究計画に移行した。当初の研究計画全体を覆う視点であり、いくつかのトピックスを横につなぐ大きな視点を導入できたことで、研究が実質的に進んだ。
まず、(1)巨大科学を既存の大学制度の枠組み(特に大学の自治)の中で行うことの検討から、逆に大学制度の(巨大科学を行う上での)限界と問題点が明らかになった。次に、(2)原子核研究の「元締め」となるべき学術会議(原子核特別委員会)の枠自体が加速器計画の進展の中で空洞化せざるを得ない構造があり、将来計画の推進自体が原子核特別委員会の存立基盤を脅かすというプロセスが進行したことが明らかになりつつある。これらの成果については学会講演を準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
将来計画の中心である素粒子研究所の体制問題の検討過程を重視する方針を採用したので、精査すべき時代として、1960年前後(東京大学原子核研究所の初期)も重要となった。この時代では、当事者が高齢化、ほとんどの方はすでに他界しているので、当初予定していたインタビュー調査から文献資料調査に重点をシフトする必要がある。
文書資料として原子核研究所教授会議事録、原子核特別委員会の記録、特に同核研小委員会の記録などの整理、比較することによって、当時の「民主主義のありかた」を明確にする。高エネルギー物理学研究所(KEK)の創設(1971年)前後の調査も進める必要があり、こちらについては当初の予定どおりインタビュー調査の整理をすすめる。
成果の取りまとめのために学会講演等を行い、そこでの批判、意見を参考にして成果の一部について論文執筆を開始する。「科学者の自立性」に関する議論は将来計画の中でも「技術的研究者」として議論されている。加速器の専門家と言える集団が成立するのは1965年以降であるが、この集団が将来計画のあり方に影響を与えている可能生についても調査も並行して行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していたインタビュー調査について、インタビュイーと日程が調整できず、本年度に持ち越しとなっていた。しかし、本年度にも日程調整が難しく、旅費、謝金、テープおこしの費用などを使用しなかった。来年度に行う予定である。また、当初予定していた日本物理学会への参加が、職務の都合上不可能となったので、旅費を使用しなかった。来年度には日程調整を工夫して参加する予定である。
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