2016 Fiscal Year Research-status Report
ランダム化比較実験とベイジアンネットワークによる因果推論の論理と哲学に関する研究
Project/Area Number |
16K01165
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
森元 良太 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 講師 (70648500)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 統計学の哲学 / 科学哲学 / ランダム化比較実験 / ベイジアンネットワーク / 因果 |
Outline of Annual Research Achievements |
科学の目標の一つは現象の背後に潜む因果関係を特定することである。現代の知識の特徴は科学的知識にあり、因果推論の論理構造、哲学的意義、思想的背景を明らかにすることは現代において重要な課題であるといえる。因果関係を推定する代表的な方法に、ランダム化比較実験法とベイジアンネットワークを用いたものがある。 平成28年度は、ランダム化比較実験法を中心に研究をおこなった。ランダム化比較実験法は、20世紀前半に進化生物学者のR. フィッシャーにより考案されたもので、これにより得られた結果はエヴィデンス水準の高いものとして信頼されている。まず、ランダム化比較実験法の論理構造を明らかにするため、ピーター・アーバックによるランダム化比較実験への批判的な議論と、それに対するディヴィッド・パピノーによる再反論の論点を整理し、また論争で十分に論じられていない点を明らかにした。この分析を通じて、ランダム化が母集団からのランダムな抽出、等確率な抽出、標本分布の不偏性、処置のランダム割付けという複数の意味で理解され、混乱が生じていることを突き止めた。そのうえで、ランダム化は区画へのランダム割付けの意味であることを明らかにしたが、その一方でこれらの概念は必ずしも明確に区別できないことも示した。 次に、ランダム化比較実験法および因果概念に関する文献を精読することで、ランダム化により因果関係を推定する際に、交絡要因を排除しようとすること、および統計的独立性を利用していることを明らかにした。また、因果概念がジェイムス・ウッドワードの介入説と整合的であることも示した。これらの成果の一部は著作、論文、学会等で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定は、H28年度はランダム化比較実験とベイジアンネットワークの両者を取り扱い、それらの論理構造のみを究明することであった。だが、ベイジアンネットワークの分析についてはH29年度に持ち越すことにし、その代わりにH29年度に予定していたランダム化比較実験の因果概念の哲学的分析をおこなった。研究項目の順番に変更はあったが、研究全体の進展としては概ね順調と判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度は、ベイジアンネットワークの論理構造を分析し、そこで想定される因果概念の分析をおこなう。当初は、H29年度にランダム化比較実験法における因果概念を究明する予定であったが、その一部は前年度におこなったため、H29年度はベイジアンネットワークを中心に研究を進める。とくに、ベイジアンネットワークを用いた解析に共分散構造分析(SEM)が主流であり、その関連文献をもとに進めていく。 H30年度は当初の予定通り、因果推論の思想的背景の研究をおこなう。ランダム化比較実験については考案者のロナルド・フィッシャー、ベイジアンネットワークについてはその基盤となるパス解析を発案したセウォール・ライトの文献を調査し、両者の思想の異同を明らかにするとともに、それらの思想が解析法に与えた影響を突き止める予定である。
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