2017 Fiscal Year Research-status Report
ランダム化比較実験とベイジアンネットワークによる因果推論の論理と哲学に関する研究
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16K01165
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
森元 良太 北海道医療大学, 心理科学部, 講師 (70648500)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 統計学の哲学 / 科学哲学 / ランダム化比較実験 / ベイジアンネットワーク / 因果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、科学における代表的な2つの因果の推定法である「ランダム化比較実験」と「ベイジアンネットワークによる統計的因果推論」を考察し、それらの因果推論の論理構造、哲学的意義、思想的背景を明らかにするものである。 平成29年度は、ベイジアンネットワークによる統計的因果推論の研究を中心におこなった。ベイジアンネットワークは、グラフ理論によって出来事間の関係を表し、確率論のベイズの定理によってその出来事の生起確率を計算することで、因果関係を推定する統計手法のことである。まず、J.パールのCausality (2000)、B.シプレイのCause and Correlation in Biology (2000)、宮川雅巳の『統計的因果推論』(2004)などの関連文献を精読し、ベイジアンネットワークの諸前提、及びその諸前提から因果を推定する論理構造を究明した。ベイジアンネットワークでは、非巡回的有向独立グラフを用いて因果が推定される。因果推定のためには交絡因子による疑似相関を排除する必要があり、そのためにマルコフ性や有向分離を利用して変数間の独立性を判定することを確認した。 次に、ベイジアンネットワークにおける因果概念に関して、P.ローゼンバウムのObservation & Experiment(2017)などを精読することで、ベイジアンネットワークでは「強い意味での無視可能性」というランダム化よりも弱い要請から因果を推定でき、かつその際に傾向スコアを用いることを示した。強い意味での無視可能性は変数間の独立性が満たされれば成立すること、および傾向スコアはランダム化のような反事実的な量を必要としないことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H29年度は当初、ランダム化比較実験とベイジアンネットワークにおける因果概念の哲学的分析をおこなう予定であった。しかし、H28年度に本年度予定のランダム化比較実験の因果概念の哲学的分析をおこない、ベイジアンネットワークによる統計的因果推論の諸前提と論理構造の究明はおこなわなかった。そのため、H29年度は予定を変更し、ベイジアンネットワークによる統計的因果推論の諸前提と論理構造、およびその哲学的分析をおこなった。H28年度とH29年度の研究内容で順番の入れ替えはあったが、2年間を通して予定していた研究内容は概ね遂行した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、当初の予定通り、因果推論の思想的背景の研究をおこなう。ランダム化比較実験については、考案者R.フィッシャーのThe Design of Experiments (1935)や著作集The Collected Papers of R. A. Fisher (1971-1974)などの一次文献、及びB.フィッシャーのR. A. Fisher (1978)やF.イェーツ&K.マサーのRonald Aylmer Fisher (1963)などの思想史の文献を精読し、フィッシャーの科学観や因果概念を究明する。 ベイジアンネットワークによる統計的因果推論については、ベイジアンネットワークのもとになっているパス解析を考案したS.ライトの思想的背景を調べるため、ライトの論文集Evolution and the Genetics of Populations (1984)やEvolution (1986)などの一次文献、及びW.プロバインのSewall Wright and Evolutionary Biology (1986)などの思想史の文献を精読する。 これらの成果をもとに、フィッシャーとライトの思想の異同を明らかにするとともに、それらの思想が解析法に与えた影響を突き止める予定である。
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Causes of Carryover |
参加予定の国際会議に出席できなかったため、外国旅費の支出が0となった。 そのため、次年度の学会発表の旅費として本年度の外国旅費を計上する。
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