2018 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の人工妊娠中絶の制度史:医療・人口・地政学
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16K01171
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
松原 洋子 立命館大学, 先端総合学術研究科, 教授 (80303006)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 人工妊娠中絶 / 戦後日本 / 人口問題 / 優生政策 |
Outline of Annual Research Achievements |
1948年公布の優生保護法による人工妊娠中絶合法化以前に実施された、引揚女性に対する組織的な人工妊娠中絶の存在は、先行研究等で指摘されてきた。しかし、厚生省およびGHQの関与については、政策史・制度史的な検証が不足していた。2018年度は前年度に続いて本件の実証的な調査を行い、その成果を「引揚者医療救護における組織的人工妊娠中絶:優生保護法前史」(坪井秀人編『ジェンダーと生政治』臨川書店、2019年所収、単著)にまとめた。本論文では、厚生省による引揚女性医療救護体制の構築過程を概観し、主な地方引揚援護局における引揚女性医療救護について整理した。そして、GHQの方針により軍病院・傷痍軍人療養所から転換した国立病院・国立療養所の全国的なネットワークの活用が、厚生省によって企図されていたことを明らかにした。さらに、引揚女性は性暴力の被害者とみなされると同時に、性病感染や「不法妊娠」による優生学的リスクをもたらす存在として「闇の女」問題と並行して敗戦直後の帝国議会において問題化され、国民優生法改正による中絶合法化の議論が始まっていたことを確認した。しかし、中絶公認の周知を避けたいGHQへの対応として、厚生省は引揚女性に対する中絶実施の理由を、女性の健康に配慮した医学的理由、すなわち刑法上の違法性阻却事由に最終的に落とし込み、その旨帝国議会で明言した。引揚女性は当該援護事業の一環として、帰郷後にも中絶手術へのアクセスが可能な状況になっていた。また、超党派の国会議員による優生保護法提案の中心にいた産婦人科医でもある国会議員らは、引揚女性の中絶に産婦人科医が動員されていることを認識していた。今後は引揚女性への中絶と優生保護法制定の連続性に注目し、さらに調査を実施する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年1月に強制不妊手術被害者を原告とする国賠訴訟が開始され、優生保護法下での強制不妊手術問題がにわかに社会で注目された。その結果、全国の都道府県および厚生労働省に保管された優生保護法関連公文書の開示が急速に進んだ。これらは、従来知られていなかった優生保護法の運用実態を明らかにする上で極めて重要な資料群であり、優生保護政策史の大幅な見直しを迫る可能性がある。これは本研究計画申請時には予期していなかった事態であり、研究期間を1年延長することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2018年7月に、共同研究者である保明綾博士(マンチェスター大学)と本研究との関連でInternational Workshop: Population and Reproduction in Japan: From the Perspective of Global Historyを京都で共同開催し、英国・台湾・日本の研究者らによる活発な議論を行った。このプロジェクトの成果の一部をJapan Forum誌の特集として掲載するための準備を進めている。また、1952年まで優生保護法13条にもとづき中絶実施の可否の審査が行われていたが、審査を担当した地区優生保護審査会関連文書が千葉県文書館に保存されている。その調査結果の第一報を日本科学史学会大会で報告した。2018年度に新たに開示された公文書等を活用し、最終年度に成果をまとめる。
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Causes of Carryover |
2018年1月以降、急速に進展した優生保護法関連公文書の開示状況をふまえて、これら資料の知見を研究成果に盛り込むために、2019年度の研究活動費を確保する必要があったため。資料費、調査費等に使用する。
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Research Products
(4 results)