2016 Fiscal Year Research-status Report
子宮頸がんワクチン接種の導入における「boundary work(境界作業)」
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16K01173
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
種田 博之 産業医科大学, 医学部, 講師 (80330976)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | boundary work(境界作業) / 疾患の表象 / リスク / 不確実性 / 薬事行政 / ワクチン行政 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は子宮頸がんと当該ワクチンを題材とした医学論文と一般雑誌記を中心として資料収集と整理をおこなった。 HPV(感染)の表象は二転三転した。HPV感染は、当初、いわゆる「性病」あるいは「STD(sexually transmitted diseases)」と表象された。しかしながら、HPV感染は子宮頸がんの発生の必要条件でしかない。HPV感染のほとんどが一過性で、感染者の約9割はHPVが体内から自然と消えていく。そのため、HPV感染を「性病」・「STD」とするのではなく、「STI(sexually transmitted infections)」として捉え直そうする動きが現れた(HPV感染は「性器の風邪」であると表現されるようになった)。こうした捉え直しのもう一つ別の背景は、子宮頸がん検診率の低さがあったと思われる。すなわち、HPV感染=「性病」・「STD」としてしまうと、HPV感染のイメージが悪くなってしまい、肝心の検診に二の足を踏むということを招くと、考えられたからであるようにも思われる。また、当該ワクチンとの関連で言えば、誰もが感染するリスクがあるのだから、ワクチン接種をおこなうべきであるという議論を導くことになったように思われる(当然、逆の議論―誰もが感染するのだから、そして一過性だから、接種を受けなくともいい―も可能であることに留意する必要があろう)。 統計データから、2000年代前半、子宮頸がんがとくに若い女性に増えていたのは確かである。そして、この増加が、当該ワクチン接種導入に対する主要な理由となっている。しかしながら、留意すべきことがある。この2000年代前半、子宮(頸)がんの「定義」が変更されていた(分類方法の変更がなされていた)。この定義の変更という事実が、がんの増加にどのような影響をおよぼしたのかということを、平成29年度以降の課題とする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ順調に、資料収集は進んでいる。平成29年度はとくに資料の整理・分析に重点を置く。また、その成果(中間報告)を、日本社会学会などの場で報告する。懸念があるとすれば、平成28年度、HPVワクチンによる健康被害が、ついに訴訟にいたった(紛争期に入った)ことであろう。このことによって、関係者への聞き取りは容易ではなくなった。あるいは、関係者へのアクセスは可能であるけれども、訴訟化したことで(原告被告双方とも)、自分たちに不利なことは話さなくなるということが起こると思われる。したがって、当時の文献資料などを中心にして、今後も資料収集をはかる。ただ、本研究はもともとHPVワクチン接種がいかに正当化され導入にいたったのかを捉えようとするものであり、関係者への聞き取りがなくても、当時の文献資料などによって完遂でき、この点でHPVワクチンによる健康被害の訴訟化は、問題はないと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
とりあえず現行のやり方で、本研究は完遂できると思われる。懸念があるとすれば、進捗状況でも述べたように、HPVワクチンによる健康被害が訴訟化したことであろう。ただ、本研究はもともと当該ワクチン接種の「導入期」を焦点化しようとしているのであり、訴訟はほとんど影響ないと思われる。 本研究において、行政(厚生労働省)の動き・考え方は重要である。とくに、ワクチン(薬剤・医療機器)の承認と、承認されたワクチンを「定期接種」化することは、区別される必要があるように思われる(厚生労働省の内部においても、管轄が異なる)。この点に留意しつつ、行政の資料(審議会などの)を収集し、整理・分析したい。
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Causes of Carryover |
出張の経路設定(とそれを前提とした旅費計算)に誤りがあり、余剰が生じた。来年度以降、このような誤りが生じないように徹底したい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
余剰は115円とほんの少額である。わずかな金額なので、来年度の研究計画に大きな影響はないと思われる。余剰分の115円は、旅費に組み込み、処理したい。
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