2017 Fiscal Year Research-status Report
子宮頸がんワクチン接種の導入における「boundary work(境界作業)」
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16K01173
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
種田 博之 産業医科大学, 医学部, 講師 (80330976)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | boundary work(境界作業) / 疾患の表象 / リスク / 不確実性 / 薬事行政 / ワクチン行政 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、子宮頸がんと当該ワクチンを題材とした医学論文と一般雑誌記を中心として資料収集・整理と分析をおこなった。その成果として、中間報告を日本社会学会(第90回大会、東京大学)にておこなった。分析は、「boundary work(境界作業)」の視点からおこなった。その主旨は、医学論文において、定期接種化される以前の2010年までの間、子宮頸がん・HPV感染・HPVワクチンがいかに語られ、当該ワクチンがどのように正当化されたのかを、ということである。 2000年代前半、子宮頸がんの若年化と検診率低下が見られ、「危機感」が語られた。これを「臨床」の視点とする。HPVの検査が容易にできるようになったことで、異常が見られない女性も感染していることが判明した。これを受け、HPV感染は特別なことではなく、誰でも感染しうることになった。しかしながら、「臨床」の視点では、がんは増えていた。そうした状況でのHPVワクチンの実用化・市販化であった。だが、すべての医療者が諸手を挙げて当該ワクチンを迎え入れたというわけではなかった。つまり、「ワクチン接種は望ましい」という境界線が確固として「あった」わけではなかった。というのは、当該ワクチンには、価格や、免疫の有効期間・日本特有のHPVなどのいくつかの限界ないし不確実性があったからである。したがって、当該ワクチン接種を推進したい医療者は、がん患者が増えているとする「臨床」の視点を前提として、大きく二つの点から正当化を図ろうとした。一つが「医療経済学」的視点であり、当該ワクチン接種の導入によって医療費などを削減できるとした。もう一つが「公衆衛生」の視点より推奨や他の国々のワクチン政策からの正当化である。こうして、10代前半の接種については望ましいとする境界線が引かれることになった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ順調に進んでいる。平成30年度はとくに資料の分析に重点を置く。また、その成果(中間報告)を、日本社会学会などの場で報告する。懸念があるとすれば、平成28年度、HPVワクチンによる健康被害が、ついに訴訟にいたった(紛争期に入った)ことを挙げることができるかもしれない。しかしながら、本研究はもともとHPVワクチン接種がいかに正当化され導入にいたったのかを捉えようとするものであるので、HPVワクチンによる健康被害の訴訟化は問題ないと思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
とりあえず現行のやり方で、本研究は完遂できると思われる。その成果を、日本社会学会などの学会で報告するとともに、冊子タイプの報告書も作成の予定である(すでにその作業に入ってもいる)。 懸念があるとすれば、進捗状況でも述べたように、HPVワクチンによる健康被害が訴訟化したことであろう。ただ、本研究はもともと当該ワクチン接種の「導入期」を焦点化しようとしているのであり、訴訟は影響ないと思われる。
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Causes of Carryover |
事務方の事務処理に誤りがあり、余剰が生じた(誤りがなければ、すべて消化していた)。来年度以降、このような誤りが生じないように徹底したい。また、余剰は約2万円であり、少ない金額とは言えないものの、研究計画に大きな影響はないと思われる。
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