2016 Fiscal Year Research-status Report
大阪湾岸臨海工業地帯の産業・港湾遺産と複合的景観の文化的価値についての研究
Project/Area Number |
16K01181
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Research Institution | Otemae University |
Principal Investigator |
二階堂 達郎 大手前大学, 現代社会学部, 教授 (20218093)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
貝柄 徹 大手前大学, 公私立大学の部局等, 教授 (10221863)
吉田 長裕 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 准教授 (20326250)
川島 智生 京都華頂大学, 現代家政学部現代家政学科, 教授 (60534360)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 臨海工業地帯 / 大阪湾岸 / 産業景観 / 港湾景観 / 産業遺産 / 文化的景観 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の主要目的は,大阪湾岸臨海工業地帯の産業景観を記録し,同地帯に残る産業・港湾遺産の現況を調査すること,そしてその文化的資産としての価値評価を行うことであるが,この目的に照らして初年度の平成28年度は収穫が得られた. まず,調査の意義について.第1に,水上からの景観調査のもつ有効性が確認できた点が挙げられる.陸上からでは海岸線へのアクセスや視点場の確保に制約があるのに対し,水域の移動はきわめて自由度が高い.そのため,新たな景観や遺構の存在を確認でき,調査も効率的に進めることができた.調査対象領域は阪神工業地帯の南部(阪南港)から東端の播磨工業地域(姫路港)まで広範囲に及ぶが,その過半を初年度で調査できた.第2は,今回の調査が時機を得たものであることを再認識できたことである.とくに臨海工業地帯の中心をなす重化学工業については,その盛期である高度経済成長期から半世紀が経ち,製造業の空洞化や港湾の再開発で施設や景観が急速に失われつつあること,当時の産業活動に従事した人々のリタイアや高齢化が進み,社会的な記憶の喪失が急速に進んでいることを調査の過程で改めて認識できた. 調査の対象と手法について.調査対象の工業地帯では大戦・震災・風水害によって多くの景観や遺構が失われているため,古い地図・写真や郷土史料等の資料の活用や,跡地・町割り・街路等に残された痕跡の記録が重要であるが,これに即した資料収集を進めることができた.海上での調査では観測位置の特定に必要な目標物が少ないため,GPSシステムの利用による視点場の正確な測位情報の取得が不可欠であるが,これにも対処できた.また,臨海工業地帯は産業・港湾施設,輸送・交通インフラ施設の複合体であり,とくに重化学工業は設備・技術で高度かつ複雑な有機的連関をもつことから,広範な専門的知見の結集が欠かせないが,多くの協力者を得て進めることができた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度に設定していた主要な達成目標は,(1)過去の研究成果や資料の収集と(2)海上・陸上での現地調査の実施であった. (1)については,経済・産業史,郷土史,港湾・土木関係資料,地図,社史等の資料を収集した.この中で,藤永田造船所については三井造船関係者の協力により社史編纂室で資料収集ができた(平成28年7月27・28日). (2)については,調査船や機材の調達,調査手法の確定などの準備を終えた後,調査を5回実施した.①「神戸港海上景観調査」(平成28年9月11日),②「神戸港・臨海工業地域の陸上調査」(10月22日),③「兵庫運河海上景観調査」(10月16日),④「尼崎西宮芦屋港海上景観調査」(12月4日),⑤「大阪港海上景観(河川・運河)調査」(平成29年3月20日).各調査とも多数の協力者の参加を得て実施できた.これにより,平成28年度に予定していた神戸港周辺と阪神間の調査をほぼ完了し,2年目に予定していた大阪港の調査も一部着手できた.撮影した写真の整理や映像の試行的編集も進めている. 内外の臨海工業地帯との比較研究に関する調査は2回実施した.①景観ルックイン「大牟田市の世界遺産(産業遺産)を活かしたまちづくり」(主催:日本建築学会都市計画委員会等,平成28年8月23日)への参加,②「ドイツの港湾・運河および炭鉱・工業関連の産業遺産視察調査」(平成29年2月3日~13日).①では,三池炭鉱関連遺産の見学を踏まえて,世界文化遺産のまちづくりへの活用について,②では,ドイツのハンブルク市とルール地方の港湾・工業地帯を視察し,空洞化する工業地帯の産業遺産の活用による再生について貴重な示唆を得ることができた.このほか,研究者で個別に京浜地区や北九州地区の視察調査を実施した.また,データの管理と共有を図るために産業・港湾遺産のデータベースの作成に着手している.
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Strategy for Future Research Activity |
現地調査は,平成29年度については,大阪港の港湾部(北港・築港・大正内港・南港など)を6月に,堺泉北港・阪南港,および姫路港・東播磨港を,夏から秋にかけて実施する予定である.これにより,海上での現地調査は予定より半年早く平成29年度中に完了することになる. 調査報告も学会等で随時行う予定である.ドイツ視察調査については,すでに,平成29年4月に近畿産業考古学会で2名が各1件の研究発表にて報告を行った.海上調査についても,記録映像の試行的な編集を進め,産業考古学会の全国大会(10月)での発表の準備を行っている.また,平成30年度にかけて学会誌や大手前大学史学研究所の論集に報告や論文を投稿する予定である. この調査の開始前後から,阪神工業地帯の重工業発展の歴史と産業景観の重要な要素となっていた工場・造船所等の解体・廃棄が相次いでいる.神戸港では,川崎重工業の第1ドック(登録有形文化財・近代化産業遺産)が埋め戻され(平成26年),同社と三菱重工業では造船事業の縮小が進行中である.大阪港では中山製鋼所(大阪市大正区)で転炉工場が解体された(平成28年).平成29年度には,神戸で現在唯一稼働している神戸製鋼所の第3号高炉が休止することになっている.調査の過程で,相次いで失われてゆく産業遺産に対する調査と記録にいかに取り組んでいくかが課題となっており,可能な限り対処したい. 残された調査や課題に取り組み,平成30年度には,調査結果の整理・編集と分析,研究成果のまとめに注力したい.過去の研究成果や資料の収集をさらに進め,映像データの編集については専門的な知識を有する協力者や業者への委託を検討したい.研究成果については,大手前大学史学研究所や諸学会等での発表に加え,研究広報用小冊子の発行,映像・画像のDVD等メディアによる配布やネット上での公開を通じても可能な限り広く公開したい.
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた要因は下記の通りである. ①「その他」の費目に内包される傭船料を予算よりも低く抑えることができた.その主な理由は,大手前大学史学研究所のプロジェクトでチャーターした船舶を,本研究の一部の海上調査に併用できたことである.②「物品費」「旅費」「人件費・謝金」は,予算を上回った.「物品費」については主に撮影・計測機材への支出,「旅費」については学会・シンポジウムへの参加費用や調査費用,「人件費・謝金」については専門的知識の提供の費用が,それぞれ当初見込額を上回ったことによる.最終的に,①の減額分が②の増額分を上回った.その差額分の大部分(140,000円)は,平成28年度未使用見込額に計上している.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については,調査結果の整理,とくに映像データの編集の費用が当初見込額を上回る可能性が高いため,助成金交付予定額と併せて,「人件費・謝金」の費目に充てる予定である.
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Research Products
(2 results)