2017 Fiscal Year Research-status Report
陶磁器の上絵層に残存する有機物からみた上絵付け技法の解明
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16K01188
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Industrial Technology Research Institute |
Principal Investigator |
樋口 智寛 地方独立行政法人東京都立産業技術研究センター, 開発本部開発第二部表面・化学技術グループ, 副主任研究員 (50463063)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
二宮 修治 東京学芸大学, 教育学部, 名誉教授 (30107718)
新免 歳靖 東京学芸大学, 教育学部, 講師 (40759156)
樋口 和美 (水本和美) 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (80610295)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 陶磁器 / 有機物 / TOF-SIMS / 赤外放射光 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者のこれまでの研究により、焼成済みの陶磁器上絵付け層に有機物が残存することを飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS分析)によって明らかにされている。本研究では、出土品等の考古資料における残存有機物から、絵付けに用いられた有機物の同定、温度や時間等の焼成条件の推定、発色等に対して残存有機物が発現する効果の解明を目指している。 2年目は、陶磁器の上絵層における残存有機物の同定に向けた試みとして、酸化鉄とPb含有フリットを混合して作製した上絵具を、膠およびふのりを用いて上絵付を行い、焼成に伴う成分変化をTOF-SIMSおよび赤外放射光を用いたFT-IR(SPring-8利用課題2017B1758)により分析した。 その結果、ふのりを用いて絵付けした上絵層は、膠を用いた場合と比較し、焼成後において有機物が優位に残存することが明らかとなった。また、Pb成分に注目すると、TOF-SIMS分析において、膠を用いた試料の場合は、Pbのイオン、ふのりを用いた試料の場合は、Pb化合物由来のフラグメントイオンが相対的に強く検出された。この現象から、両試料間において、例えば化学結合状態等、Pbの存在形態が異なることが示唆される。これらから、上絵付焼成時における化学反応は、混合した有機物成分により異なることが示された。今後、多様な上絵具を用いた事象の分析を試み、焼成による化学反応等を解明することが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
考古資料の分析への展開は現状では進んでいないものの、赤外放射光やTOF-SIMS分析により、複数の糊材を用いた上絵層モデルについて、焼成後における残存有機物や焼成時の化学反応に差異が確認されている。本研究の目的である絵付けに用いられた有機物の同定や焼成条件の推定等に必要な知見が蓄積されてきており、研究は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
TOF-SIMSや加速器利用分析により蓄積された有機物や絵具成分に関する結果へ、モデル試料による熱化学的見解や色絵層の形態等の情報を融合させ、焼成条件等の推定、さらに有機物を考慮した上絵付技法の解明を目指す。 本研究の成果は、学会発表はもとより、陶磁器製作地への普及も目指し、各地の窯業技術センター等への情報提供を行う予定である。
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Causes of Carryover |
放射光施設利用が予定の1日減となった。そのため、消耗品および旅費等の繰り越しが発生した。 分析に必要となる物品、特に次年度着手する考古資料分析に向けた消耗品類の購入、研究成果発表の旅費として使用する。
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