2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K01191
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Research Institution | Nara National Research Institute for Cultural Properties |
Principal Investigator |
脇谷 草一郎 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 主任研究員 (80416411)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柳田 明進 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, 埋蔵文化財センター, 研究員 (30733795)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 埋蔵環境 / 金属製遺物 / 腐食 / 溶存酸素 / 熱・水分・物質移動 / 現地保存 / モデル化 / 酸化還元環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、1)熱・水分・物質移動の数値解析から遺跡地盤内部の温度、含水率、酸化還元環境、すなわち遺物の埋蔵環境を推定するモデルの構築と、2)様々な含水率、酸化還元環境下での金属の腐食速度を室内実験から定量化することで、埋蔵環境下での金属製遺物の腐食速度のモデル化を試みる。 今年度は地盤の含水状態が飽和から不飽和状態にある遺跡において、地盤内部の酸素濃度の分布と、これらが埋蔵環境下での鉄製遺物の腐食速度におよぼす影響を検討するため、遺跡地盤を模したカラム内で金属試料の腐食実験を実施した。実験では内径300mmのカラムに土粒子を模したガラスビーズ(粒径0.045~0.09 mm)を充填した後、水位を一定の深度に保つことで遺跡の水分状態を再現し、異なる深度に設置した炭素鋼の作用電極の分極抵抗を連続測定するとともに、酸素濃度計、水分ポテンシャル計を炭素鋼試料と同一深度に設置することで、鉛直一次元のモデルにおける各深度の鉄製遺物の腐食速度と酸素濃度、水分状態の関係を検討した。その結果、鉄製遺物の腐食速度は地盤が水分飽和した状態では腐食速度が緩慢であるものの、地下水位直上の不飽和状態においては急激に高い腐食速度を示した。また、次にカラム下端からの水分供給を絶ち、上端から水分蒸発を促進させた乾燥過程においては、含水状態の低下にともない酸素濃度が上昇した後、鉄製遺物の腐食速度が遅れて上昇する傾向が認められた。これらの結果から、金属製遺物の腐食に対しては地盤内部の溶存酸素濃度が支配的であり、その濃度分布については、地下水面すなわち水分飽和の境界位置に支配されることが示唆された。 また、これらの結果から地盤内部における埋蔵環境を推定するモデルの構築には、地下水面深度の予測が肝要であることから、地下水位の連続測定を実施している平城宮跡をモデルとして、その地下水位を再現するモデルの構築を試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
カラム実験の乾燥工程における埋蔵環境変化とそれにともなう金属試料の腐食過程は非平衡のものであるため、その腐食過程をモニタリングするためには相応の時間を要した。当初の計画ではカラム内部間隙水の溶質(塩)濃度やpH条件などの諸条件を変化させた実験を実施の予定であったが、それらの実施が遅れている。 また、モデル化においては最終的には遺跡地盤内部の埋蔵環境を再現することが目的であり、カラム実験結果からはとりわけ溶存酸素の挙動の予測が重要であることがあきらかとなった。しかし、実際の地盤内部における溶存酸素の挙動に対しては、土壌内部の微生物活動が大きく影響をおよぼしており、これについてはカラム実験では考慮できていない。これらの生物活動をどのようにモデル化するかという点において更なる検討を要している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで実施してきたカラム実験について、ガラスビーズで実施してきたが、その保水性や透水性状が良好な状態の金属製遺物が出土する多くの遺跡と同じように、シルト質の土壌である藤森粘土に変更して引き続きカラム実験を実施する。また、カラム実験における金属試料の腐食過程において、測定対象とする期間を初期の腐食過程に限定して、1回の実験を短期のものとして様々な条件下で引き続きカラム実験をおこなう。 平城宮跡で実測調査を実施している地下水位変化を再現するモデルの精度向上をはかるとともに、溶存酸素濃度の変化に対して大きく影響をおよぼす微生物活動を再現するモデルを検討する(金属試料の腐食速度を支配する環境条件のモデル化)。 モデルにより計算される金属試料の腐食速度と実測値の比較から、腐食を予測するモデルの妥当性を検討する(環境条件と金属腐食の練成モデル作成)。 妥当性が検証された段階で、遺跡現地において埋蔵環境を改善する手法をモデルの計算結果から検討する(練成モデルに基づいた遺物の埋蔵環境下における現地保存法の検討)
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