2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K01192
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Research Institution | Kyushu National Museum |
Principal Investigator |
赤田 昌倫 独立行政法人国立文化財機構九州国立博物館, 学芸部博物館科学課, アソシエイトフェロー (90573501)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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Keywords | 文化財 / X線CT |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はX線CTの透過能力の高さを利用し、そのCT像や輝度値を用いて塗料や接着剤といった文化財に用いられる有機質の材料を非破壊非接触で判別するための基礎研究である。X線CTで彫刻や漆工芸品などの調査を行うと部材間の接合部に接着剤や充填材の痕跡が見られることがある。接着剤や充填材の種類がわかることは当時の技法解明だけでなく、将来の修理にも大きく関連することから非常に重要な研究であると言える。本研究では特に部材間の接合に使用された有機系材料の材質調査とX線CT像での見え方や輝度値について検証を行う。 当該年度では有機質材料の各試験片作製と、実際の文化財資料の観察について研究を進めた。試験片としては漆、油、膠を塗布した木製の手板を作製した。また試験片は下地あり、下地無しのものを作製した。 手板は文化財用大型X線CT(工業用のミニフォーカスX線CT像)と、マイクロフォーカスX線CTを用いて調査を行い、各CT像について見え方の比較を行った。大型X線CTの出力は225kV、1.3mA、解像度120um、マイクロフォーカスX線CTの出力は50kV、200uA、解像度5umとした。CT像を見ると、漆(生漆)・油(乾性油)・膠(三千本膠)ではコントラストに差があることがわかった。特に漆と油では油の方がコントラストとして白く見え、油の輝度値が高いことがわかった。作製した手板の全てで同様の現象が核にできたことから、この差は下地や木材、膜厚の影響によるものではなく材質による違いを表していると考えられた。またマイクロフォーカスX線CT像を検証した結果、輝度値の違いとともに、下地の材料差や顔料などの塗料に含まれる材料の違いを判別できることがわかった。 その他、文化財資料の調査については漆工芸品の調査を中心に進めており、刻苧と推定される充填材を数多くの資料で見ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28の11月に追加採択されたため、今年度は試料作製など研究準備に関わることを中心に行った。そのため、実験等は限定的にしか行えなかった。ただし、平成28年度に予定していたことは平成29年度の上半期に全て完了するので、以後の研究は問題なく進行できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は28年度に作製した試験片についてCTによる調査を継続し、それぞれについて観察と輝度値算出を行う。調査内容としては漆、油、膠の手板試料を文化財用大型X線CT(工業用のミニフォーカスX線CT像)で撮影するときに60umまで解像度を上げ、高精細のデータを取得する。 高精細データでは各塗料について顔料などの混入物によるX線CT像のコントラストや見え方の違いを検証する予定である。また各有機質材料における厚さと輝度値の相関性を検証し、詳細な評価方法を策定する。 次に漆工芸品や木彫像などを中心に多く使用される刻苧について集中的に調査を行う。刻苧は試験片を新たに作製する。刻苧は粒度を段階的に変えたもの、膠着材として漆と膠を添加したものを作製する。刻苧と組み合わせる塗料の違いからX線CT像の見え方の違いを検証する。
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Causes of Carryover |
平成28年11月に採択されたため、28年度中に納品可能な試験片の作製を行った。試験片は漆塗りに長けた専門技術者に依頼する必要があるため、実験計画の一部のみの発注を行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は28年度中に予定した試験片作製を行う予定であり、すでに作製を実施するための材料を調達し、専門技術者への試験作製を依頼している。
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